ゴンドラの唄 | けこですのブログ

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竹久夢二「はつ旅」
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ゴンドラの唄

いのち短し 恋せよ乙女 紅き唇 褪せぬ間に
熱き血潮の 冷えぬ間に 明日の月日は ないものを

いのち短し 恋せよ乙女 いざ手を取りて 彼の舟に
いざ燃ゆる頬を 君が頬に ここには誰も 來ぬものを

いのち短し 恋せよ乙女 黒髪の色 褪せぬ間に
心のほのほ 消えぬ間に 今日はふたゝび 來ぬものを


バドさんのブログで小林旭さんの歌う「ゴンドラの唄」を聞かせて頂きました。
この唄を歌って有名なのは何と言っても森繁久弥さんですが、
小林旭さんも素晴らしかった。
この唄はどうも、情感豊かに、というよりは控えめに淡々と歌うのが
かえって胸を打つようで、声の質自体に味わいと深みがなければ出来ない技です。

命短し 恋せよ乙女。.. 私は乙女ではなく、四半世紀恋はしておりません。
赤き唇 褪せぬまに...赤かったはずの唇にも小皺の気配が忍び寄っています。
黒髪の色 褪せぬまに...髪は三週間毎に染めない事には惨めな有様に。
熱き血潮の 冷えぬまに、心のほのほ 消えぬまに.....。

若い、という事は一瞬の夢のようです。「儚い」という言葉そのもの。
若い頃は自分が若いという自覚すらなかった。
美人には程遠くとも、唇は赤かったし、黒髪の量もたっぷりと艶々輝いていました。
肌には染みも皺もなく、体にたるみが無い事を当たり前と思っていたのです。

80年の寿命があるとして、乙女と呼んでいい年月は何年あるでしょうか。
10年あるかなしか。そして振り返れば胸の痛む事ばかり。
ただ、誰にもあった事だけは確かなのです。どれ程遠い昔にせよ。
あったおかげで思い出す事ができるのです。熱き血潮も心のほのほも。

志村喬さん。映画「生きる」の一場面から。
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黒澤明監督の映画、「生きる」。
胃癌で死を悟った主人公が一人公園のブランコを揺らせながら、
「ゴンドラの唄」を口ずさむこのシーン。
黒澤監督が描きたかった全てのテーマが志村さんの表情に凝縮されています。
死に行く恐怖と悲しみだけではない、人間の一生の重さがここに。
そして、不思議にも希望すら感じさせてくれるような気がしてなりません。
旅立ちを前にした人の、この瞳の強さ。

乙女の頃も、人間の一生も夢幻のように短いものです。
「ゴンドラの唄」はその短い一瞬を生き抜くようにと心を揺さぶります。
強い瞳で生き抜き、穏やかな瞳で旅立てるように。
「今日は再び 来ぬものを」.....。

バドさん、大切な事を思い出させて下さって、ありがとうございました!