すべての音が坂本自身へのレクイエム(鎮魂歌)のように響いた。
「戦場のメリークリスマス」も、YMO時代の「東風」も、「ラスト・エンペラー」も、よく知っているメロディがまったくちがった意味を持ってきこえてくる。音符にどんな意味をもたせるのかは、演奏する「手」が決めるのだ。枯れ木のような坂本龍一の手が、自分自身を指揮するように何度も・ゆっくりとふりあげられた。
モノクロの映像が、むしろ音を華やかに感じさせてくれる。
映画の冒頭で坂本龍一自身が語っている。
この時期はもう一時間半なりのコンサートを完遂する体力がすでになく、NHKのスタジオで数回に分けて録音・撮影された。
*
コンサート映画としては地味である。悪く言えば、どの曲も同じテイストで演奏されている。一時間半近く、えんえんとレクイエムを聴かされるコンサート映画。
自分自身が寿命を意識する年齢になったからじっと聞き入ることができたのか。若い人には退屈かもしれない。若いころの自分なら途中で飽きていただろう。
だが、2024年9月28日63才の自分は、パリに向かうJL45便の機内で音楽と映像に見入ってしまった。
坂本龍一は71才で亡くなったのだ。
**
この作品を制作したのは、坂本龍一の最後の子供=空音央(くうねお)。映像作家。
父の最後になるだろう仕事を、抑制された力強さで記録している。
いちばん最後、
空席になったピアノが自動演奏する。