「カルテ開示について」


 近年、情報公開はすべての分野で求められており、医療関係も例外ではありません。

 アンケ-トでは70%以上の人がカルテ開示の法制化に賛成しております。

 しかし、日本医師会では診療情報の提供は医者と患者間の信頼関係を築くためのものであり、法的な義務や権利関係にはなじまないと考えています。

 医師会に対するアンケ-トでは地方の医師の半分以上はカルテの公開に賛成していますが、都会の医師では賛成の医師は2割にも満たないとの報告もあります。

 カルテ開示に反対の人の意見の多くは、訴訟のために利用されるのではないかと不安を訴えます。

 実際一部のマスコミや市民団体など明らかに医師を悪者にしようとしているのではないかと思われる行動が見られます。

 私はカルテの開示は賛成ですが、日本の保険医療の実際がもっとマスコミはもちろんのこと、国民全員に理解されなければ混乱が起こるのではないかと思っています。

 一例を挙げると、日本の保険診療では予防的な医療はできません。
 皆さんはピロリ菌という名前を聞いた事が有ると思います。
 ピロリ菌は胃潰瘍や胃ガンの発生の原因であることが最近の研究で分かりました。
 胃の中からピロリ菌をなくすためには抗生物質を投与する必要が有ります。しかし抗生物質の能書きにはピロリ菌に使って良いと書いてありません。

 患者さんの事を考えて抗生物質を投与しますと適用外のため、保険請求をしても保険から治療費が支払われませんので病院では赤字になってしまいます。
 そのためにやむなく抗生物質の使用が認められている病名をつけることが有ります。
 これを一般に保険病名と言っています。

 カルテ開示が法制化されて医師の説明もなく提供されたならば患者さんが不安を抱くのではないでしょうか

 先日にもある新聞に総合病院が診療報酬を不正請求したという記事が大きく載っていました。
 腰部脊柱管狭窄症の患者さんにホルモン剤を投与して、保険適用の対象となる病名をつけて不正請求をしたということです。
 この病気は治療が困難で手術が必要な場合が多いのですが、この薬が効果が有ることが分かっています。
 患者さんが苦しんでいればなんとかしたいと思うのが医者ではないかと思います。

 まったく薬を出さないで保険請求をしたならば不正請求とされても仕方ありませんが、実際に効果があるものを使って非難されるのは、規則違反をしている事と分かっていても何となく納得できない所があります。
 不正請求ではなくて不適当請求などともう少し穏やかな言い方は無いでしょうか。

 現在の薬の値段や効能を決定する制度を根本的に変えることが必要だと思います。

 またいつも医師会が非難される薬価差益の問題も日本医師会は薬価差益はなくすべきだと主張しています。
 現在、薬価差益を残すように言っているのは薬メ-カ-です。厚生省とグルになっていると思います。

 少し脱線してしまいましたが、日本医師会では診療情報の提供に関する指針を制定し、平成12年1月1日から施行することになりました。
 これは法制化には反対しましたが医師会が自主的にカルテ開示を行うということです。
 自分の診療記録を見たい人は各医療機関に申し込めばコピ-や要約書などを手に入れることができます。

 医療機関がカルテ開示に応じない場合には県医師会にある診療に関する相談窓口に相談を依頼すれば対応することになっています。

 カルテの開示によって患者さんと医者の間に本当の信頼関係が生まれ、病気に対してお互いに協力して対処していくことができることを念じています。