――ぞくり。
不意に誰かに見られてる様な視線を感じた。ドアの方を振り返る。たまに藍が覗いてる時があるんだ。でも、今日はいない。
気のせいか、視線を元に戻す。
しかしその途中で気になる物が目に入った。
「窓がちょっと開いてる?」
そう。窓がほんの少しだけ開いていたんだ。僕はどうしても気になって窓の隙間の死角に潜り込んで、一気に窓を全開にして外を見た。
「ぬおぉおおおおおおおお!?」
「いやぁああああああああ!!」
僕は驚きで悲鳴しか上げられなかった。相手も同じだったらしく、ドラ○エのパ○スよろしく奇声を上げた。
「りゅ、竜宮寺さん!? ど、どうして君がここに?」
体を隠せるだけ手で隠しながら問い詰める。
「アッハッハ」
「いや、笑って誤魔化せると思ってるの!?」
「アッハッハ……では私はこれで」
シュビっと手を敬礼の形にして逃げようとする竜宮寺さんの背中に、僕はとっさに叫んだ。
「話を聞くから待ってて!! 玄関の方にいてね!」
そう、彼女だって何かしらの訳があって覗きをしていたんだと思う。そうじゃなきゃただの変態さんだ。
僕は着替えの世界新記録を塗り替えるが如きスピードでパジャマに着替えた。水玉模様で胸元にフリルが付いている最近のお気に入りだ!
そのまま髪を乾かす暇も無く玄関に向かう。ここで一つ心配になる。彼女は待っていてくれているかだ。僕だったら覗きが見つかった相手に呼び止められたら絶対に応じることは無いだろう。
不安を胸に抱きながら玄関のドアを押し開く。
「……いた」
拍子抜けして、つい声に出てしまう。彼女は玄関先の小さな石に腰かけていた。
「いた、とはなんだ! 君が呼び止めたのだろう!」
立ち上がり、仁王立ちでそう言う彼女。悪党というのはいつの時代も堂々としているものなのかな、なんてことが頭をよぎる。
「そ、そうだけど。じゃあそもそもなんで覗いていたのさ!」
「趣味だ!」
「警察に連絡してくるね!」
えーと警察の番号はなんだっけ、タウンページをペラペラ。
「ハッハッハ! 冗談だ。いや何、そんなに可愛らしい君は家でどんな生活をしているのかと思ってな。後を付けさせて頂いた」
え? ということは家での会話も全部聞かれてた? 僕が男だってバレた? というか風呂を覗かれてたんだからまずそれを考えるべきだった。
どうしようどうしようどうしよう。
目の前が真っ白になって頭が全然回らない。
「しかし家の前まで来たのはいいものの、お風呂くらいしか覗ける場所が無かったからずっと待機していたのだが……いざ覗いてみ ると意外と見えないものだな。小説の表現で湯気で隠れて見えないとかはよくあるが、まさか自分が体験することになろうとは思わなかったよ! いや、実に惜 しかった!」
指をパチンと鳴らし、悔しがりながら彼女は言った。
「……え? じゃあ僕が家に帰ってからの会話とか、僕の全裸とかは見てないんだね?」
一縷の希望を持って聞く。
「うむ、会話は聞いてないが、上半身だけは湯気に隠れて無かったからな、見えた。それでその……言ってはいけないと思うのだが……言わせてくれ」
竜宮寺さんの黒くて大きな瞳が僕を憐みの目で見つめた。
瞬間、僕は核心を突く言葉が来るのを覚悟した。
あぁ、これで僕の女装高校生活も終わりか、短かったなぁ。
「うん、分かってるから。言っていいよ」
最後のとどめは潔く受け止めよう。
「男のようにぺったんこなおっぱいだったな」
「うん、そう実は僕おと――ぉおおお!? って、えぇ!? 今なんて言ったの!?」
「だから、がっかりなおっぱいでドンマイと」
「そんな風には言ってなかったけど……うん分かった。もういいよ」
「情緒不安定な子だな君は」
知り合った初日にストーキングする様な人には言われたく無い。
でもよかった……バレて無かったんだ。
でも今日はバレなかったけど、こんな予測できない行動をする彼女にいつまでもバレない保証は無い。