親知らずを抜いた人の話を聞いて、昔親知らずの手術をした時のことをかなり細かいところまで思い出した。

 

年齢は26歳だったと思う。

歯が痛い日々が続いてたが、放置していた。そんな時に転勤が決まったので、転勤後に歯医者さんに行くことに。

 

ところが転勤後すぐに工場実習に行くことが決まる。新潟県の工場で1ヶ月間。それだけ期間があれば治療ができるだろうと甘く考えていた。

その地域では、歯医者の予約は1年後だという。いわば歯の健康診断みたいなものが文化として定着してるのだと理解した。それでも痛いので、「歯医者に駆け込んで痛いんですと訴えればきっと治療してくれる」という言葉を信じて歯医者へ。でも本当に応急措置をしただけで、治療は着手してくれなかった。

 

実習が終わって本来の地に戻る。しかしその後はOJTの名のもとに、先輩とお客様に訪問する毎日。

歯医者に行く隙間が無い。

やっと歯医者に行けたのは、それから2ヶ月後。ところがその歯医者、レントゲンを見るなり「こ、これは」と絶句。そこで初めて痛みの原因は親知らずであり、かつその親知らずが横向きに生えていることがわかる。絶句したのはその状況のせいだと思う。

 

職場に帰って報告すると、そんな歯医者は信用するな、いい歯医者さんがいるからと、先輩のお父様の歯医者を紹介してくれた。そこでもレントゲンを撮り、結果は同じだったが、話し方が全然違った。「心配することはないけど、下の親知らずが横に生えてて神経にかかっているので歯科では抜くことはできない。安心できる口腔外科を紹介するのでそこで治療をしてください」と。

 

その紹介で通ったのは日本歯科大学付属病院。飯田橋駅前にあった。訪ねて行ったのは、その先輩のお父様の後輩にあたる助教授。ここでも診断の結果、究極の二択を提示された。ひとつは4本一気に抜く手術。全身麻酔で行って、助教授自らが執刀。もうひとつは、左右別々に上下2本同時を抜く。局部麻酔。これは普通の通院で行うので、誰が執刀するかは決まらない。全身麻酔ってたまに事故が起きるということも聞いた。局部麻酔は痛みは抑えられるけど、目の前でまさにガリガリと手術が行われるわけで、そっちの恐怖があった。元職場の元上司に相談したところ、「おまはんは、(痛い話は苦手なのを知ってるので)目の前の手術は耐えられないと思うので全身麻酔にした方がいい」とアドバイスをくれた。「全身麻酔もそんなに事故は起きないし」って。

 

手術は1泊2日の入院。1日目の午前中に手術をし、あとは翌日まで寝てるだけ。

手術が始まる前に注射を打たれたので、それが麻酔かなと思ってたが、そうではなかった模様(何だったのかは記憶にない)。やがて手術室に運ばれる。研修生らしき人がずらっと並んでた。多分手術の見学。そして口にガスが注がれる。それが麻酔ガス。先生が「こっまちゃいさんですね」と何度かいう。「はい」と言ったと思う。何回か呼ばれるうちに意識がなくなった。

 

手術が終わったらしく、先生が耳元で「手術終わりました」というのが聞こえた。その後手術室から病室に運ばれたようだ。途中でエレベーターがなかなか来ないようで、それに苛立っていたのは覚えている。

病室に帰っても寝るだけ。ただ麻酔が切れてきて気持ちが悪い。痛いというのより二日酔いのような感覚の方が強かった気がする。

夕食は出てこなかったか、あるいは出てきたが食べられなかったかもしれない。

夜になると、喉が渇いてきて、1階の自動販売機に行った。ホットココアを買った気がする。

ちょうどそこにもう一人飲み物を買いに行った。お互いに喋れる状態ではなかった。だがその人は飲み物を買うために100円貸してほしいと言って、それを貸してあげた。まさに「わーわーわー」「わーわーわー」って感じの会話だった。その後ちゃんと病室に返しに来てくれた。

 

翌朝も痛いと気分が悪い状態だった。そんな状態で退院。電車で帰れる状態でなかったので、病院の前でタクシーを拾った。当時千葉県の船橋市にすんでいたので、高速に乗れば30分ぐらい。ところがその運転手さんは1時間ぐらい後になんか約束があったようで、「私はそっちまで行けないので、代わりのタクシーを見つけます」って。それを聞いて、同じ会社のタクシーでも呼ぶのかと思ったら、どこかタクシーのいそうな場所に行って、そこに止まってたタクシーに乗り換えた。

体調は最悪の状態だったので、そこまでのタクシー代を払わなきゃみたいなこともその時は思い浮かばなかった。

 

家に帰ってからどうしてたかは一切おぼえていない。

その後の話で記憶があるのは、平日になって出勤。お昼ご飯は中華料理屋に行き、中華スープとご飯のセットを注文して、ご飯をスープに入れて、お粥の方にして食べてた。そのセットには漬物もついていたが、それは食べられないので拒否した。でも別の店員さんが私のところに漬物がないのを見つめて、持ってこようとしたら、「その人漬物嫌いだからいらないって」って。いや嫌いなわけではない。

そんな食生活を3日間続けた。

 

次の週末に寮のイベントがあった気がする。

新入寮生として何か出し物をやる必要があったが、病人ということで免除してもらった。

 

その後抜歯にいったんだっけ。私も結構長くほったらかしにして行ったが、その時の担当医師もすごい不安になるような対応だったような気がする。