「隊長は今日も女と同衾か」
「これで三日連続だぞ」
「まさか、本気で惚れたんじゃ」
「そりゃ、ねぇだろう」
「でも、真剣に惚れた女が居るのに他の女を抱くなんて」
結婚して三年も経つのに未だに恋女房しか目に入らない坂木らしい言葉だ。
しかし、惚れた女こそ居るが、女がこちらに来るまで時間が掛かり未だ少女の仁田 は花街の世話にもなる。
花街の女は堅気の女と違う手練手管と色艶があり、堅気の男が道を間違うなど珍しい事でもない。
「おい、またあの男だ。あの女二股かぁ~?」
「証拠掴めば隊長も目を覚まされようか」
「俺は男の後を着けてくる。お前は、まさかの三又ねぇか見張っててくれ」
仁田は元は竹添の部下で情報伝達の任務に携わり二番隊での研修も受けているので気配を消すのに長けている。
造作無く女の後を着けると女の家の屋根に飛び移り耳を側立てた。
四半刻もせずに店の表で見た男がやって来て、何やら屋根の下から艶っぽい声が聞こえて来た。
仁田は伝令神機で録音した。
やがてことが終ったところで仁田も撤収した。
坂木に録音を聞かせると、女房持ちのくせに頬を赤らめ
「これを、お聞きになれば隊長も目が覚められるだろう」と、拳を握った。
ところ、がである。
意気揚々と録音を聞かせたところ、冬獅郎は
「中々色っぽいじゃねぇか。ダビングさせろ」
だった。
あんぐりと口を開けた二人は肩を落として竹添に噛みついた。
「副隊長が…気の毒です。隊長殴ったらクビですかね?」
「クビにはならんだろうが、今夜捕り物がある。それを前に怪我しても仕方ないだろう」
見れば各隊の配置図などが机にある。
二人は不消化な顔をして頷いた。
その夜、隊舎の庭に整列した十番隊は各小隊長の合図に音も無く移動した。
敵は『疾風の黒賊』
何の前触れも無く証拠の欠片も残さない凶族だ。
押し入ったら皆殺しの上火を放つのだから証拠が残るはずもなかった。
二番隊さえ捕まえ損ねたそれを今月市中見廻り当番の十番隊が掴まえようと策を練っていた。
何の手掛かりも残さない賊の盗人宿を特定したのは、さすがは隠密機動と謂うべきだろう。
そこに冬獅郎が内定に潜入しているわけだ。
そして、今宵、本町橋近くの『伊勢屋』に押し入る情報を掴んだのだ。
「しかし、いくら隊長に岡ぼれしてたとして信用して大丈夫なんですかね。あんな稼業の女ですから猜疑心も強かろうし勘も堅気の女よりも働くだろうし」
席官達の心配も尤もではある。
しかし、乱菊はニッコリ笑って自信あり気に言った。
「大丈夫。隊長の情報は確かよ。みんな、現場で怪我しないでね。相応に腕が立つようだから」
その晩、予想通り『 伊勢屋』に賊が押し入った。
しかし店子に扮した竹添隊がまちかまえており体術も得意な彼らは賊を次々と捕縛した。
そんな中、仲間を盾にして男が一人逃げ出した。
男は例の店の二階に入り込むと階段を駆け下りて、客にお酌している女の襟首を掴み上げて
「てめぇ、裏切ったな」
と、刃を振り下ろした。
「裏切られたなら、あんたがそれだけの価値しかないからよ」
手刀で匕首を叩き落とした影が
耳に心地よい綺麗な声を響かせた。
男は悔しそうな顔を一瞬したが素早く指笛を鳴らした。
「これで、てめぇの親父も道連れだ」
「誰が何をやるって ?」
その声と共に二人の死神が男を一人捕縛して姿を見せた。
「役たたずめ」
「そりゃ、お勤めに失敗してこそこそ逃げる男の部下だものねぇ」
「うるせぇ。つか、そうだ。千代、この女はてめぇが首ったけになっている男の女房だぜ。
この女が居て、てめぇに本気になるわけないだろ。騙されやがって、いい気味だ」
「うるさい男ね。ぺらぺら油紙の様ね。軽い上に鬱陶しい」
「お客さん、店ん中で騒ぎは困りますぜ」
老いた店主が厨房から顔を出す。
その一瞬だった、男が短刀を店主に投げる。
乱菊が手刀で叩き落としたが、間髪入れず反対の手で二撃目を投げた。一瞬の隙だった。
乱菊が結界を張ったが、千代は気付かず店主を庇った。
「おとっつぁん大丈夫?」
店主は涙ながらに頷いている。
「護廷十番隊である。隼の辰三。大人しくしろ」
「女垂らし込んで手柄立てるぁ、護廷の隊長も手段をえらばねぇな」
「畜生働きする外道を捕まえるのに手段なんぞ選べるか。アホ」
「最後まで、よく喋る男ね」
乱菊が治癒鬼道に長けた部下に千代の手当てを命じたが出血が治まらない。
傷口に当てた乱菊の襦袢の袖が血を吸って重く垂れている。
「四番隊を呼びましょうか」
「奥方様。もう良いんです。良い夢を見させていただきました。あたしは夢の中で眠ります」
千代は最後に微笑んで首を垂れた。そして、光になって散って逝く。
「馬鹿な女だ。騙されたまま逝きやがって」
「本当に佳い男ってのはね。現実も打ち消した程に酔わせるものなの。確かに、うちの人は嘘つきだけどね、彼女が見た夢の幸せは本物よ」
「さて、引き上げるか仁田、坂木。その爺を引っ立てろ」
「お役人様。あっしは憐れな娘を弔ってやりとうございます。ご慈悲を」
「娘ねぇ。火事で焼き出された子供の中で器量良しを引き取って、手込めにして無理矢理手先にした人を、そう呼ぶの?」
「てぇか、頭目を召し取らねぇわけいくか。『疾風の佐平』さんよ」
「恐れ入ったねぇ。お見通しって訳かい。女たらしこむばっかじゃねぇのな」
「当たり前でしょ。顔の良し悪しだけで、数百人の命預かれないわよ」
「まぁな。てめぇの亭主が他の女抱いても仕事なら割りきれるんだから、大した女だぜ」
「…割りきれるわけ…ないじゃない?」
引っ立てられる者どもを見送って乱菊は光が昇り消えた方を見やって呟いた。
声はかぜと喧騒に散らされて誰にも聞こえなかった。
十番隊から二番隊へ渡された賊は、徹底的なプロの拷問で余罪を全て追求された上で流魂街の鉱山へ送られた。今後は魂尽きるまで過酷な労役に就かされる事だろう。
思えば先に転生を果たした千代は幸せかもしれない。
こんな過酷な地で飯盛り女として苦役に就かずに済んだのだから。
そして、桜の季節が来た。
竜虎が植樹した『日番谷』という品種の植えられた丘で十番隊は花見を開催した。
冬獅朗がクッションと膝掛けを抱えて乱菊を労っているのを
見て
「任務とはいえ、浮気の贖罪なのか?」
「死神も辛いっすね」
「違うと思うぞ」
「まぁ、聞いてれば解る」
囁き合う仁田と坂木にベテラン二人はゆったり笑って酒を干した。
「あー。副隊長が身籠った。皆にはフォローを頼むこともあると思うが、特に席官達はよろしく頼む。余計な心配しとらんでな」
「みんなー、迷惑掛けてごめんね」
花びらの中微笑む乱菊は変わらず若々しく美しい。
しかし、人ならば既にアラフォーだ。
(まだ産むんですか?)
声に出せない隊士の思いが花びらと共に散る。
何にしても隊主夫妻不仲説は花と共に散ったのだ。
●
あ~だらだら長いわ。今年の目標は書いたら『早目に』完結です。
気長におたの申します。
タイトルこれが正式です。
さすがにもう打ち留めだと思うけど、老域に差し掛かってまさかのおめでたとかやりたい。
孫と子が同じ年とか…冗談です。ごめんなさい。
てか、鬼滅の刃、はまり掛けたら連載終了とか。私がグズなのか、でもノマカプで推しがいないからいいか。
作家さん、女性らしいけどなんか納得だわ。
絵が微妙に少女漫画チック。好きだけど。
「これで三日連続だぞ」
「まさか、本気で惚れたんじゃ」
「そりゃ、ねぇだろう」
「でも、真剣に惚れた女が居るのに他の女を抱くなんて」
結婚して三年も経つのに未だに恋女房しか目に入らない坂木らしい言葉だ。
しかし、惚れた女こそ居るが、女がこちらに来るまで時間が掛かり未だ少女の仁田 は花街の世話にもなる。
花街の女は堅気の女と違う手練手管と色艶があり、堅気の男が道を間違うなど珍しい事でもない。
「おい、またあの男だ。あの女二股かぁ~?」
「証拠掴めば隊長も目を覚まされようか」
「俺は男の後を着けてくる。お前は、まさかの三又ねぇか見張っててくれ」
仁田は元は竹添の部下で情報伝達の任務に携わり二番隊での研修も受けているので気配を消すのに長けている。
造作無く女の後を着けると女の家の屋根に飛び移り耳を側立てた。
四半刻もせずに店の表で見た男がやって来て、何やら屋根の下から艶っぽい声が聞こえて来た。
仁田は伝令神機で録音した。
やがてことが終ったところで仁田も撤収した。
坂木に録音を聞かせると、女房持ちのくせに頬を赤らめ
「これを、お聞きになれば隊長も目が覚められるだろう」と、拳を握った。
ところ、がである。
意気揚々と録音を聞かせたところ、冬獅郎は
「中々色っぽいじゃねぇか。ダビングさせろ」
だった。
あんぐりと口を開けた二人は肩を落として竹添に噛みついた。
「副隊長が…気の毒です。隊長殴ったらクビですかね?」
「クビにはならんだろうが、今夜捕り物がある。それを前に怪我しても仕方ないだろう」
見れば各隊の配置図などが机にある。
二人は不消化な顔をして頷いた。
その夜、隊舎の庭に整列した十番隊は各小隊長の合図に音も無く移動した。
敵は『疾風の黒賊』
何の前触れも無く証拠の欠片も残さない凶族だ。
押し入ったら皆殺しの上火を放つのだから証拠が残るはずもなかった。
二番隊さえ捕まえ損ねたそれを今月市中見廻り当番の十番隊が掴まえようと策を練っていた。
何の手掛かりも残さない賊の盗人宿を特定したのは、さすがは隠密機動と謂うべきだろう。
そこに冬獅郎が内定に潜入しているわけだ。
そして、今宵、本町橋近くの『伊勢屋』に押し入る情報を掴んだのだ。
「しかし、いくら隊長に岡ぼれしてたとして信用して大丈夫なんですかね。あんな稼業の女ですから猜疑心も強かろうし勘も堅気の女よりも働くだろうし」
席官達の心配も尤もではある。
しかし、乱菊はニッコリ笑って自信あり気に言った。
「大丈夫。隊長の情報は確かよ。みんな、現場で怪我しないでね。相応に腕が立つようだから」
その晩、予想通り『 伊勢屋』に賊が押し入った。
しかし店子に扮した竹添隊がまちかまえており体術も得意な彼らは賊を次々と捕縛した。
そんな中、仲間を盾にして男が一人逃げ出した。
男は例の店の二階に入り込むと階段を駆け下りて、客にお酌している女の襟首を掴み上げて
「てめぇ、裏切ったな」
と、刃を振り下ろした。
「裏切られたなら、あんたがそれだけの価値しかないからよ」
手刀で匕首を叩き落とした影が
耳に心地よい綺麗な声を響かせた。
男は悔しそうな顔を一瞬したが素早く指笛を鳴らした。
「これで、てめぇの親父も道連れだ」
「誰が何をやるって ?」
その声と共に二人の死神が男を一人捕縛して姿を見せた。
「役たたずめ」
「そりゃ、お勤めに失敗してこそこそ逃げる男の部下だものねぇ」
「うるせぇ。つか、そうだ。千代、この女はてめぇが首ったけになっている男の女房だぜ。
この女が居て、てめぇに本気になるわけないだろ。騙されやがって、いい気味だ」
「うるさい男ね。ぺらぺら油紙の様ね。軽い上に鬱陶しい」
「お客さん、店ん中で騒ぎは困りますぜ」
老いた店主が厨房から顔を出す。
その一瞬だった、男が短刀を店主に投げる。
乱菊が手刀で叩き落としたが、間髪入れず反対の手で二撃目を投げた。一瞬の隙だった。
乱菊が結界を張ったが、千代は気付かず店主を庇った。
「おとっつぁん大丈夫?」
店主は涙ながらに頷いている。
「護廷十番隊である。隼の辰三。大人しくしろ」
「女垂らし込んで手柄立てるぁ、護廷の隊長も手段をえらばねぇな」
「畜生働きする外道を捕まえるのに手段なんぞ選べるか。アホ」
「最後まで、よく喋る男ね」
乱菊が治癒鬼道に長けた部下に千代の手当てを命じたが出血が治まらない。
傷口に当てた乱菊の襦袢の袖が血を吸って重く垂れている。
「四番隊を呼びましょうか」
「奥方様。もう良いんです。良い夢を見させていただきました。あたしは夢の中で眠ります」
千代は最後に微笑んで首を垂れた。そして、光になって散って逝く。
「馬鹿な女だ。騙されたまま逝きやがって」
「本当に佳い男ってのはね。現実も打ち消した程に酔わせるものなの。確かに、うちの人は嘘つきだけどね、彼女が見た夢の幸せは本物よ」
「さて、引き上げるか仁田、坂木。その爺を引っ立てろ」
「お役人様。あっしは憐れな娘を弔ってやりとうございます。ご慈悲を」
「娘ねぇ。火事で焼き出された子供の中で器量良しを引き取って、手込めにして無理矢理手先にした人を、そう呼ぶの?」
「てぇか、頭目を召し取らねぇわけいくか。『疾風の佐平』さんよ」
「恐れ入ったねぇ。お見通しって訳かい。女たらしこむばっかじゃねぇのな」
「当たり前でしょ。顔の良し悪しだけで、数百人の命預かれないわよ」
「まぁな。てめぇの亭主が他の女抱いても仕事なら割りきれるんだから、大した女だぜ」
「…割りきれるわけ…ないじゃない?」
引っ立てられる者どもを見送って乱菊は光が昇り消えた方を見やって呟いた。
声はかぜと喧騒に散らされて誰にも聞こえなかった。
十番隊から二番隊へ渡された賊は、徹底的なプロの拷問で余罪を全て追求された上で流魂街の鉱山へ送られた。今後は魂尽きるまで過酷な労役に就かされる事だろう。
思えば先に転生を果たした千代は幸せかもしれない。
こんな過酷な地で飯盛り女として苦役に就かずに済んだのだから。
そして、桜の季節が来た。
竜虎が植樹した『日番谷』という品種の植えられた丘で十番隊は花見を開催した。
冬獅朗がクッションと膝掛けを抱えて乱菊を労っているのを
見て
「任務とはいえ、浮気の贖罪なのか?」
「死神も辛いっすね」
「違うと思うぞ」
「まぁ、聞いてれば解る」
囁き合う仁田と坂木にベテラン二人はゆったり笑って酒を干した。
「あー。副隊長が身籠った。皆にはフォローを頼むこともあると思うが、特に席官達はよろしく頼む。余計な心配しとらんでな」
「みんなー、迷惑掛けてごめんね」
花びらの中微笑む乱菊は変わらず若々しく美しい。
しかし、人ならば既にアラフォーだ。
(まだ産むんですか?)
声に出せない隊士の思いが花びらと共に散る。
何にしても隊主夫妻不仲説は花と共に散ったのだ。
●
あ~だらだら長いわ。今年の目標は書いたら『早目に』完結です。
気長におたの申します。
タイトルこれが正式です。
さすがにもう打ち留めだと思うけど、老域に差し掛かってまさかのおめでたとかやりたい。
孫と子が同じ年とか…冗談です。ごめんなさい。
てか、鬼滅の刃、はまり掛けたら連載終了とか。私がグズなのか、でもノマカプで推しがいないからいいか。
作家さん、女性らしいけどなんか納得だわ。
絵が微妙に少女漫画チック。好きだけど。