「明日、例の村へ行く。お前も来てくれ」
帰宅した冬獅郎の夕食の相手をしていた乱菊は
「はい」
と応えた。
今夜、鬼蜘蛛と会ったなら何か新たな話があったのかもしれない。
乱菊は言葉少なに頷いた。
翌日は秋晴れの良い天気だった。
午前中に種類仕事をほぼ終わらせた冬獅郎と乱菊は午後は二人共件の村へ向かう旨を東雲に伝えて昼に出掛けた。
東雲は二人を気遣わし気に見送っている。
元より席官達は乱菊に過保護の帰来があった。
殊に彼女の少女期を知っている竹添や熊襲は顕著で冬獅郎は偶に大勢の小舅に囲まれている気がする。
それは鬱陶しい反面有り難い事でもあった。
村に着くと二人は直接、村長の家に向かった。
昨夜、村人から報告を受けているのだろう村長はいつになく表情が硬い。
それでも後から入って来た乱菊に一瞬見惚れてから二人を奥に案内した。
座敷に入ると村長は緊張した面持ちで冬獅郎の言葉を待っている。
冬獅郎は居住まいを正すと口を切った。
「さて村長。最近、瀞霊廷で根も葉も無い噂が流れていてな。噂を辿ったところここの村人にたどり着いた訳だ」
「根も葉もないと日番谷様は、仰いますが真にそうでしょうかな?」
「どういう意味か?」
「いえ、聞けば孫娘とあなた様は現世で夫婦で二世を誓った仲とか、広い流魂街で巡り会えたのに中途半端なままというのも孫が不憫でな。まぁ、これほど美しい奥方がおいででは簡単には手放せないでしょうがな」
「無礼な。俺は離縁する気なんざねぇ」
冬獅郎は傍らの乱菊の手を握った。応えるように乱菊が指で冬獅郎の手を撫でる。
それだけで充分だった。
その時、娘が襖を開けて入って来た。
どうやら話を聞いていたらしい。
「幸彦さん酷い。遺体の山の中をあなたを探すまでしたあたしとの約束を反古にするなんて。約束した時の花籠も持っているというのに」
娘は籠に持ち手の付いている籠を掲げた。
(遺体の山?変ね、何で遺体なのかしら)
乱菊は、その事が引っかかっていた。
その内なる声に応えたわけでもないだろうが
「あぁ、そうだな『遺体の山』な」
目を眇めて吐き捨てるように言った。
「俺は、ちょっとした事件で過去の記憶が曖昧でな。それでお前ぇの話を聞きながら記憶の補填をしてたらしいが、俺は『妻』や『女房』の言葉を聞くと自動的にこいつを思い浮かべるらしくてな。いつの間にか過去にこいつを重ねていた」
冬獅郎は繋いだままの手を持ち上げた。
「『遺体の山』だよな。お前、俺が城詰めの間に優勢だった敵方に落ち延びていたもんな。落城した後じゃ誰に尋ねようにも遺骸しかねぇよな」
「でも、あたしはこれをずっと大切に」
「確かに俺が作った奴と同じ意匠だが、俺が作った物そのままじゃねぇ。現世から持ち込めねぇからな。つまりそういうこった。見た目が同じでも現世とは違うものだ」
「だってあなたは変わらず優しくて」
「だから、お前ぇの話を聞きながら自分に都合の良い話を補填してたって言ってんだろ。俺の嫁さんはな、どんなに劣勢でも俺の側を離れねぇ敵の弾や矢をくぐり抜けて戻って来んだよ。俺は無意識にそんな女を思い浮かべていた。記憶は新しい感情を生まねぇ。すまんな」
「日番谷様。それでは孫が不憫です」
「孫、孫、煩せぇな。あんたの目的は、そんな可愛いもんじゃねぇだろ」
「何を」
「あんた、もう一人孫娘が居たろ?それを前の十番隊隊長に妾奉公に出しているよな」
「それは隊長様の求めで仕方なく」
「嘘をつけ。あんたは偶然に見つけた銀鉱を届け出しねぇで掘ってたんだよな。その便宜を図るため孫を人身御供にしたんだ。今回の地崩れの被害がでけぇのも無計画に鉱脈を掘ったからだろうが」
先ほどまでは好意的とは言えないまでも
好好爺然としていた村長が顔を歪めた醜悪な顔で
「お前たち出て来い。こやつらを返すわけにはいかなくなった」
と呼ばわった。
すると手に手に鍬やナタを持った村人がなだれ込んで来たが、れが何になろう。
二人は斬魄刀を抜く事なく襲いかかる刃をかいくぐり外へ出ると瞬歩で瀞霊廷に戻った。
帰宅後、安堵のため息を漏らした乱菊が
「そういえば、もう一人の過去の方は見つかったのですか?」
と尋ねると冬獅郎は何とも楽し気な顔をして
「あぁ、見つけた」
と悪戯っぽく笑った。
「どんな方?」
「こっちはすげぇ佳い女」
と答えて嬉しそうに笑った。
乱菊が膨れて抓っても堪えないらしく
冬獅郎は更に笑みを深くしたのだった。
帰宅した冬獅郎の夕食の相手をしていた乱菊は
「はい」
と応えた。
今夜、鬼蜘蛛と会ったなら何か新たな話があったのかもしれない。
乱菊は言葉少なに頷いた。
翌日は秋晴れの良い天気だった。
午前中に種類仕事をほぼ終わらせた冬獅郎と乱菊は午後は二人共件の村へ向かう旨を東雲に伝えて昼に出掛けた。
東雲は二人を気遣わし気に見送っている。
元より席官達は乱菊に過保護の帰来があった。
殊に彼女の少女期を知っている竹添や熊襲は顕著で冬獅郎は偶に大勢の小舅に囲まれている気がする。
それは鬱陶しい反面有り難い事でもあった。
村に着くと二人は直接、村長の家に向かった。
昨夜、村人から報告を受けているのだろう村長はいつになく表情が硬い。
それでも後から入って来た乱菊に一瞬見惚れてから二人を奥に案内した。
座敷に入ると村長は緊張した面持ちで冬獅郎の言葉を待っている。
冬獅郎は居住まいを正すと口を切った。
「さて村長。最近、瀞霊廷で根も葉も無い噂が流れていてな。噂を辿ったところここの村人にたどり着いた訳だ」
「根も葉もないと日番谷様は、仰いますが真にそうでしょうかな?」
「どういう意味か?」
「いえ、聞けば孫娘とあなた様は現世で夫婦で二世を誓った仲とか、広い流魂街で巡り会えたのに中途半端なままというのも孫が不憫でな。まぁ、これほど美しい奥方がおいででは簡単には手放せないでしょうがな」
「無礼な。俺は離縁する気なんざねぇ」
冬獅郎は傍らの乱菊の手を握った。応えるように乱菊が指で冬獅郎の手を撫でる。
それだけで充分だった。
その時、娘が襖を開けて入って来た。
どうやら話を聞いていたらしい。
「幸彦さん酷い。遺体の山の中をあなたを探すまでしたあたしとの約束を反古にするなんて。約束した時の花籠も持っているというのに」
娘は籠に持ち手の付いている籠を掲げた。
(遺体の山?変ね、何で遺体なのかしら)
乱菊は、その事が引っかかっていた。
その内なる声に応えたわけでもないだろうが
「あぁ、そうだな『遺体の山』な」
目を眇めて吐き捨てるように言った。
「俺は、ちょっとした事件で過去の記憶が曖昧でな。それでお前ぇの話を聞きながら記憶の補填をしてたらしいが、俺は『妻』や『女房』の言葉を聞くと自動的にこいつを思い浮かべるらしくてな。いつの間にか過去にこいつを重ねていた」
冬獅郎は繋いだままの手を持ち上げた。
「『遺体の山』だよな。お前、俺が城詰めの間に優勢だった敵方に落ち延びていたもんな。落城した後じゃ誰に尋ねようにも遺骸しかねぇよな」
「でも、あたしはこれをずっと大切に」
「確かに俺が作った奴と同じ意匠だが、俺が作った物そのままじゃねぇ。現世から持ち込めねぇからな。つまりそういうこった。見た目が同じでも現世とは違うものだ」
「だってあなたは変わらず優しくて」
「だから、お前ぇの話を聞きながら自分に都合の良い話を補填してたって言ってんだろ。俺の嫁さんはな、どんなに劣勢でも俺の側を離れねぇ敵の弾や矢をくぐり抜けて戻って来んだよ。俺は無意識にそんな女を思い浮かべていた。記憶は新しい感情を生まねぇ。すまんな」
「日番谷様。それでは孫が不憫です」
「孫、孫、煩せぇな。あんたの目的は、そんな可愛いもんじゃねぇだろ」
「何を」
「あんた、もう一人孫娘が居たろ?それを前の十番隊隊長に妾奉公に出しているよな」
「それは隊長様の求めで仕方なく」
「嘘をつけ。あんたは偶然に見つけた銀鉱を届け出しねぇで掘ってたんだよな。その便宜を図るため孫を人身御供にしたんだ。今回の地崩れの被害がでけぇのも無計画に鉱脈を掘ったからだろうが」
先ほどまでは好意的とは言えないまでも
好好爺然としていた村長が顔を歪めた醜悪な顔で
「お前たち出て来い。こやつらを返すわけにはいかなくなった」
と呼ばわった。
すると手に手に鍬やナタを持った村人がなだれ込んで来たが、れが何になろう。
二人は斬魄刀を抜く事なく襲いかかる刃をかいくぐり外へ出ると瞬歩で瀞霊廷に戻った。
帰宅後、安堵のため息を漏らした乱菊が
「そういえば、もう一人の過去の方は見つかったのですか?」
と尋ねると冬獅郎は何とも楽し気な顔をして
「あぁ、見つけた」
と悪戯っぽく笑った。
「どんな方?」
「こっちはすげぇ佳い女」
と答えて嬉しそうに笑った。
乱菊が膨れて抓っても堪えないらしく
冬獅郎は更に笑みを深くしたのだった。