村の丘の上で復旧計画の図面を引いていた冬獅郎はいつの間にか眠っていた。
丘を渡って行く風が心地良い。
幼い頃、周囲から避けられていた冬獅郎は一人裏山に登っては村を見下ろして昼寝をしたものだ。
疲れも溜まっていたのだろう、不用心にも体を横たえて、微睡んでいた。
だが、ふと何かが唇に触れたのでパチリと目を覚ませば村長の孫娘が覆い被さり唇を押しつけていた。
慌て娘を押しやると
娘は花街の女のように赤い紅を着けている。
冬獅郎は己の唇に移された紅を忌々しそうに拭うとイライラと言った。
「小娘が似合わねぇもん着けて大人の真似すんな。」
「酷い幸彦さん。あたしは、なりはこうでも幸彦さんの妻だった時の記憶があります。あなたが望めば閨にだってお供します」
「俺には女房が、ちゃんと居る」
「酷い。次の世で逢ったら必ず、添い遂げてくれると約束したのに。でも、許してあげます。あたしが、こっちに来るのが遅かったから寂しかったのでしょう?だから、代わりにあんな年増と。幸彦さん可哀想に」
冬獅郎は自分に伸ばされる腕をまじまじと見ていた。
娘は避けられないのを良い事に冬獅郎の首筋に腕を絡めて再び唇を押し付けた。
乱菊は忌々しげに伝令神機を閉じた。
『あなた様だけが何もご存知ないのは同じ女として許せなく』
との一文が添えられて送られて来た写真は『悪意あるお節句』で片付けるのは難しかった。
だから消去せずにいるのかもしれない。
「今日も、お父さん居ないをだね」
虎次郎の言葉に
「お忙しいのよ」
と返しながらも、あんなに可愛がっていた子供達より冬獅郎には気に掛かるものがあるのだろうかと思えば溜め息が漏れる。
「お母さん、具合悪いの?何か元気ないよ」
竜太郎の声に乱菊ははっとする。
自分がしゅんとしていては子供達が不安がるではないか。
「なぁんにもないわよ。お母さんは元気よ。お父さんがお留守だから夜はパスタにしようか?」
途端に歓声が上がる。子供達は基本的に冬獅郎譲りの和食好きだが味覚がまだ幼いので幾分か現世の子供が好むものも好きだ。
冬獅郎は出された食事に文句や嫌な顔をする事はないが苦手な事が分かっているので気の毒だ。なので留守の時はできるだけ子供達の好きな夕食にしている。
そうすれば父不在の寂しさも少しは紛れるというものだ。
その夜更け、いつものように帰宅した冬獅郎は風呂を使った後で乱菊の布団に潜り込もうとして、寝室がもぬけの空である事に気付いて青ざめた。
丘を渡って行く風が心地良い。
幼い頃、周囲から避けられていた冬獅郎は一人裏山に登っては村を見下ろして昼寝をしたものだ。
疲れも溜まっていたのだろう、不用心にも体を横たえて、微睡んでいた。
だが、ふと何かが唇に触れたのでパチリと目を覚ませば村長の孫娘が覆い被さり唇を押しつけていた。
慌て娘を押しやると
娘は花街の女のように赤い紅を着けている。
冬獅郎は己の唇に移された紅を忌々しそうに拭うとイライラと言った。
「小娘が似合わねぇもん着けて大人の真似すんな。」
「酷い幸彦さん。あたしは、なりはこうでも幸彦さんの妻だった時の記憶があります。あなたが望めば閨にだってお供します」
「俺には女房が、ちゃんと居る」
「酷い。次の世で逢ったら必ず、添い遂げてくれると約束したのに。でも、許してあげます。あたしが、こっちに来るのが遅かったから寂しかったのでしょう?だから、代わりにあんな年増と。幸彦さん可哀想に」
冬獅郎は自分に伸ばされる腕をまじまじと見ていた。
娘は避けられないのを良い事に冬獅郎の首筋に腕を絡めて再び唇を押し付けた。
乱菊は忌々しげに伝令神機を閉じた。
『あなた様だけが何もご存知ないのは同じ女として許せなく』
との一文が添えられて送られて来た写真は『悪意あるお節句』で片付けるのは難しかった。
だから消去せずにいるのかもしれない。
「今日も、お父さん居ないをだね」
虎次郎の言葉に
「お忙しいのよ」
と返しながらも、あんなに可愛がっていた子供達より冬獅郎には気に掛かるものがあるのだろうかと思えば溜め息が漏れる。
「お母さん、具合悪いの?何か元気ないよ」
竜太郎の声に乱菊ははっとする。
自分がしゅんとしていては子供達が不安がるではないか。
「なぁんにもないわよ。お母さんは元気よ。お父さんがお留守だから夜はパスタにしようか?」
途端に歓声が上がる。子供達は基本的に冬獅郎譲りの和食好きだが味覚がまだ幼いので幾分か現世の子供が好むものも好きだ。
冬獅郎は出された食事に文句や嫌な顔をする事はないが苦手な事が分かっているので気の毒だ。なので留守の時はできるだけ子供達の好きな夕食にしている。
そうすれば父不在の寂しさも少しは紛れるというものだ。
その夜更け、いつものように帰宅した冬獅郎は風呂を使った後で乱菊の布団に潜り込もうとして、寝室がもぬけの空である事に気付いて青ざめた。