「つまり妻と離縁して松本乱菊と結婚したいと」
「はい」
元柳斎の前に端座した冬獅郎は悪びれずきっぱりと答えた。
「奥方を不憫に思わぬか?」
「いいや全く。そもそも、何で結婚したのか記憶にないですし、言い交わしていた相手は元から松本ですし」
「そんな勝手が護廷の隊長として許されると思っているのですか?」
卯の花の叱責が飛ぶが冬獅郎は飄々と言い返した。
「自分の娘と結婚させる為に他人の記憶を弄って許されるなら許されるだろうさ」
「なっ」
「それに惚れた女と一緒になれねぇなら俺ぁ、流魂街に帰って畑を耕して暮らす」
「日番谷っ」
「それより雪音は妊娠しているのですよ。父親としての責任は、どうするのです?」
「生まれりゃ、はっきりするだろうが、あれは俺の子じゃねぇ。何せ指一本触れた事ねぇし」
「簡単には信じられませんね」
「あんたが信じなくても事実は事実だ。なんで惚れた女の敵を抱くかよ」
「あなたに人しての情けはないのですか?」
「それはあんたにこそ大いに言いたいが。俺は他人に余計な情けはかけねぇ事にした。俺の甘さが今回の悲劇の一因だからな」
「と、言う事で妻の不貞が離縁の理由です。総隊長、失礼します」
立ち上がり様、一礼した冬獅郎は最後に笑った。
それは久々に見る感情を伴った表情だった。
踵を返した冬獅郎を見送った二人は重苦しく話を続けた。
「総隊長、お許しになるおつもりですか?」
「許すも許さぬも日番谷の言い分は筋が通っておる。いずれにしても腹の子が日番谷の子でないなら話にならん」
「…はい…」
「卯の花、そなたがすべきは娘御と語らうことじゃな念のために言うが余計な小細工はいたすなよ」
憤怒と立ち去る卯の花は、それでもまだ勝機ありと思っていた。
雪音が身ごもっているのは事実で
と、すれば相手は日番谷しか居ないのだから。
卯の花は急ぎ自宅に帰った。
娘夫婦が暮らす離れに向かうと雪音が着物の裾を乱れさせ畳の上で抱き合っていた。
最初は襲われているのだと思ったが男の背に回された雪音の指がすりすりと男の背を愛撫しているのを見て合意なのだと心付いた。
「こほん」
小さく咳払いをすると二人は慌てて離れたが男は悪びれず
「知れてしまったら仕方ない。雪音、お前も腹を括れ」
卯の花は幾ばくかの金を男に渡すと、明日また同じ時刻に来るように言い一旦は帰した。
雪音と二人切るになると卯の花は雪音との前に端座した。
「雪音、どういうことかしら?泣いていても解りませんよ」
雪音は泣きながらぽつりぽつりと話始めた。
結婚しても冬獅郎は指一本触れてくれなかった。
それで子供ができれば冬獅郎も変わるだろうと思った。
そんな時、かつての許嫁で貴族の次男である日下礼次郎がやって来て何となく、そういう仲になった。
寂しくて仕方なかったので礼次郎と付き合い出した。そして目論見通り身ごもった。
これで冬獅郎は自分から離れられないと安心したのだ。
余りの発想の拙さに卯の花は首を振った。
「冬獅郎さんは、お腹の子供が自分の子供でないと知った上で離縁を申し出ましたよ」
「そんな酷い。あたくしはどうすれば良いの?」
「お腹の子の父親と一緒になるしかありませんね」
「そんな、そんな」
後悔しても仕方ないのだ。
そもそもが砂上の楼閣のような結婚だったのだ。
○
数ヵ月後、瞬歩で帰宅した冬獅郎は厨の乱菊の手を引いて座敷に座らせた。
「だから、お前はその腹で立ち働くな」
「安定期ですから大丈夫です」
「りょう、お父さんだぞ無事か?」
子供が生まれたら男でも女でも「りょう」を使うと冬獅郎は決めている。
雪音と乱菊の子供は同じ頃に生まれる。
目下、雪音の夢は生まれる子供同士を添わせる事だ。
それをまだ乱菊の腹の中の竜太郎は知らない。
「はい」
元柳斎の前に端座した冬獅郎は悪びれずきっぱりと答えた。
「奥方を不憫に思わぬか?」
「いいや全く。そもそも、何で結婚したのか記憶にないですし、言い交わしていた相手は元から松本ですし」
「そんな勝手が護廷の隊長として許されると思っているのですか?」
卯の花の叱責が飛ぶが冬獅郎は飄々と言い返した。
「自分の娘と結婚させる為に他人の記憶を弄って許されるなら許されるだろうさ」
「なっ」
「それに惚れた女と一緒になれねぇなら俺ぁ、流魂街に帰って畑を耕して暮らす」
「日番谷っ」
「それより雪音は妊娠しているのですよ。父親としての責任は、どうするのです?」
「生まれりゃ、はっきりするだろうが、あれは俺の子じゃねぇ。何せ指一本触れた事ねぇし」
「簡単には信じられませんね」
「あんたが信じなくても事実は事実だ。なんで惚れた女の敵を抱くかよ」
「あなたに人しての情けはないのですか?」
「それはあんたにこそ大いに言いたいが。俺は他人に余計な情けはかけねぇ事にした。俺の甘さが今回の悲劇の一因だからな」
「と、言う事で妻の不貞が離縁の理由です。総隊長、失礼します」
立ち上がり様、一礼した冬獅郎は最後に笑った。
それは久々に見る感情を伴った表情だった。
踵を返した冬獅郎を見送った二人は重苦しく話を続けた。
「総隊長、お許しになるおつもりですか?」
「許すも許さぬも日番谷の言い分は筋が通っておる。いずれにしても腹の子が日番谷の子でないなら話にならん」
「…はい…」
「卯の花、そなたがすべきは娘御と語らうことじゃな念のために言うが余計な小細工はいたすなよ」
憤怒と立ち去る卯の花は、それでもまだ勝機ありと思っていた。
雪音が身ごもっているのは事実で
と、すれば相手は日番谷しか居ないのだから。
卯の花は急ぎ自宅に帰った。
娘夫婦が暮らす離れに向かうと雪音が着物の裾を乱れさせ畳の上で抱き合っていた。
最初は襲われているのだと思ったが男の背に回された雪音の指がすりすりと男の背を愛撫しているのを見て合意なのだと心付いた。
「こほん」
小さく咳払いをすると二人は慌てて離れたが男は悪びれず
「知れてしまったら仕方ない。雪音、お前も腹を括れ」
卯の花は幾ばくかの金を男に渡すと、明日また同じ時刻に来るように言い一旦は帰した。
雪音と二人切るになると卯の花は雪音との前に端座した。
「雪音、どういうことかしら?泣いていても解りませんよ」
雪音は泣きながらぽつりぽつりと話始めた。
結婚しても冬獅郎は指一本触れてくれなかった。
それで子供ができれば冬獅郎も変わるだろうと思った。
そんな時、かつての許嫁で貴族の次男である日下礼次郎がやって来て何となく、そういう仲になった。
寂しくて仕方なかったので礼次郎と付き合い出した。そして目論見通り身ごもった。
これで冬獅郎は自分から離れられないと安心したのだ。
余りの発想の拙さに卯の花は首を振った。
「冬獅郎さんは、お腹の子供が自分の子供でないと知った上で離縁を申し出ましたよ」
「そんな酷い。あたくしはどうすれば良いの?」
「お腹の子の父親と一緒になるしかありませんね」
「そんな、そんな」
後悔しても仕方ないのだ。
そもそもが砂上の楼閣のような結婚だったのだ。
○
数ヵ月後、瞬歩で帰宅した冬獅郎は厨の乱菊の手を引いて座敷に座らせた。
「だから、お前はその腹で立ち働くな」
「安定期ですから大丈夫です」
「りょう、お父さんだぞ無事か?」
子供が生まれたら男でも女でも「りょう」を使うと冬獅郎は決めている。
雪音と乱菊の子供は同じ頃に生まれる。
目下、雪音の夢は生まれる子供同士を添わせる事だ。
それをまだ乱菊の腹の中の竜太郎は知らない。