家に着いた冬獅郎は乱菊を座敷に下ろすと夢でも見ているような、どこか覚束ない目で乱菊を眺めるとペタンと座っている乱菊の胸にぱふんと顔をうずめた。
「乱菊、乱菊」
口をついて出るのは乱菊の名前ばかりで何を問うでも語るでもない。
まるで子供のように胸にすりすり甘える姿に乱菊は銀色の髪に指を潜らせ柔らかな髪を梳きながら形の良い頭を抱いた。
(でも)
と、乱菊は思う。
伝え聞いた話では冬獅郎は雪音と結婚して、彼女は身ごもっているという。
ならば、いつまでもこうはしていられない。
乱菊は、そっと立ち上がろうとした。
しかし、腰に冬獅郎がしがみついているので再びペタンと座る。
「どこへ行く気だ」
「何だか、たいちょってばやつれているから何か食べるものを」
「俺ぁ、お前が去なくなったら自然消滅すんだ。窶れても仕方ねぇだろ」
「たいちょ、お父様になられるんですから、そんな事をおっしゃってはいけません」
「ああ、そうか子供か」
冬獅郎は嬉しそうに笑った。乱菊は胸に痛みを覚えたが、素知らぬ振りで立ち上がり厨に入った。
氷室を覗くと入口近くに茸が盛られた籠がある。
(竹添ね)
乱菊は、にっこりした。
「乱菊」
冬獅郎の声がする。
別に用事があるわけではないと分かっているので
「はぁい」
と聞こえるように声を張る。
乱菊は手早く土鍋に米を研ぐと、風呂の支度をし茸の処理をして料理を始めた。
その間も一定間隔で自分を呼ぶ冬獅郎の声がする。
出来上がった料理を運ぼうとすると冬獅郎が来て運んで行く。
「こういう物を持つな普通の体じゃねぇんだから危ねぇだろ」
途端に乱菊が膝を折る。
「どうした?どっか痛ぇのか?」
鍋を座卓に置いて冬獅郎が飛んで来た。
「冬獅郎さん。ご迷惑なさい。赤ちゃん駄目でした。霊子に返ってしまいました。あたししか守ってあげられなかったのに、あたし達にしか誰にも存在さえ知られずに」
冬獅郎は懐から手拭いを取り出し乱菊の溢れる涙を拭った。
「それでも、お前が無事で良かったつったら怒るか?赤ん坊は情けねぇ親父に変わってお前を守ってくれたんだな」
冬獅郎の目の膜が剥がれ落ち涙が流れ落ちた。
雪音が言っていたように確かに童話の『雪の女王』のように氷の棘が冬獅郎に刺さり心を凍らせていたのだ。
ただ、彼女の想定と異なるのはキャストで氷を溶かすのは乱菊で棘を打った存在こそが雪音だったのだ。
「だがよ。お前、さっき『お父様になるのに』って言っただろ」
「冬獅郎さん結婚したって奥様が解任中だって」
しゅんとした乱菊の手を取って乱菊を座卓の前に座らせた。
冬獅郎は乱菊の作った料理をよそって並べると
「冷めるぞ。つか、俺がお前以外の女と餓鬼なんか作るか。俺は自分の餓鬼に興味は無ぇ。お前が母親なら欲しいと思うだけだ」
茸ご飯と味噌汁漬け物、シンプルな内容だったが冬獅郎は久々に食べ物に味を感じた。乱菊を取り戻して冬獅郎は五感が戻ったようだ。
だが、冬獅郎に妻が居るのも雪音が身ごもっているのも事実であり乱菊と冬獅郎が元の生活を取り戻すために乗り越えなくてはならない壁だった。
「乱菊、乱菊」
口をついて出るのは乱菊の名前ばかりで何を問うでも語るでもない。
まるで子供のように胸にすりすり甘える姿に乱菊は銀色の髪に指を潜らせ柔らかな髪を梳きながら形の良い頭を抱いた。
(でも)
と、乱菊は思う。
伝え聞いた話では冬獅郎は雪音と結婚して、彼女は身ごもっているという。
ならば、いつまでもこうはしていられない。
乱菊は、そっと立ち上がろうとした。
しかし、腰に冬獅郎がしがみついているので再びペタンと座る。
「どこへ行く気だ」
「何だか、たいちょってばやつれているから何か食べるものを」
「俺ぁ、お前が去なくなったら自然消滅すんだ。窶れても仕方ねぇだろ」
「たいちょ、お父様になられるんですから、そんな事をおっしゃってはいけません」
「ああ、そうか子供か」
冬獅郎は嬉しそうに笑った。乱菊は胸に痛みを覚えたが、素知らぬ振りで立ち上がり厨に入った。
氷室を覗くと入口近くに茸が盛られた籠がある。
(竹添ね)
乱菊は、にっこりした。
「乱菊」
冬獅郎の声がする。
別に用事があるわけではないと分かっているので
「はぁい」
と聞こえるように声を張る。
乱菊は手早く土鍋に米を研ぐと、風呂の支度をし茸の処理をして料理を始めた。
その間も一定間隔で自分を呼ぶ冬獅郎の声がする。
出来上がった料理を運ぼうとすると冬獅郎が来て運んで行く。
「こういう物を持つな普通の体じゃねぇんだから危ねぇだろ」
途端に乱菊が膝を折る。
「どうした?どっか痛ぇのか?」
鍋を座卓に置いて冬獅郎が飛んで来た。
「冬獅郎さん。ご迷惑なさい。赤ちゃん駄目でした。霊子に返ってしまいました。あたししか守ってあげられなかったのに、あたし達にしか誰にも存在さえ知られずに」
冬獅郎は懐から手拭いを取り出し乱菊の溢れる涙を拭った。
「それでも、お前が無事で良かったつったら怒るか?赤ん坊は情けねぇ親父に変わってお前を守ってくれたんだな」
冬獅郎の目の膜が剥がれ落ち涙が流れ落ちた。
雪音が言っていたように確かに童話の『雪の女王』のように氷の棘が冬獅郎に刺さり心を凍らせていたのだ。
ただ、彼女の想定と異なるのはキャストで氷を溶かすのは乱菊で棘を打った存在こそが雪音だったのだ。
「だがよ。お前、さっき『お父様になるのに』って言っただろ」
「冬獅郎さん結婚したって奥様が解任中だって」
しゅんとした乱菊の手を取って乱菊を座卓の前に座らせた。
冬獅郎は乱菊の作った料理をよそって並べると
「冷めるぞ。つか、俺がお前以外の女と餓鬼なんか作るか。俺は自分の餓鬼に興味は無ぇ。お前が母親なら欲しいと思うだけだ」
茸ご飯と味噌汁漬け物、シンプルな内容だったが冬獅郎は久々に食べ物に味を感じた。乱菊を取り戻して冬獅郎は五感が戻ったようだ。
だが、冬獅郎に妻が居るのも雪音が身ごもっているのも事実であり乱菊と冬獅郎が元の生活を取り戻すために乗り越えなくてはならない壁だった。