目覚めた乱菊は一瞬、冬獅郎が居ない事に狼狽えた。
しかし、直ぐに手の内の結び文に気付いて開いた。
『思想犯の一件で出掛ける。お前は休め』
冬獅郎の筆跡で、そう書いてある。
乱菊を不安がらせないためだろう
『日番谷冬獅郎』の署名と日時まで書いてある。
その細やかな心遣いに乱菊は思わず微笑んで布団を片付けた。
『休め』と、言われて休めるはずもない。
体は思うより楽だった。
多分、冬獅郎は身重の乱菊を思って静かに抱いたのだろう。
しかし、鏡台を覗けばはだけた胸元に無数の痕がある。
『夢じゃねぇって判るようにしといてやる』
昨夜の冬獅郎の声が蘇って乱菊は赤くなった。
しかし、一つ二つならともかく、
こんなに痕があっては普段の着付けで死覇装は着られない。
乱菊は立ち上がって箪笥から予備の死覇装を取り出した。
いくら恥ずべき事はないと自己流の着付けを通している乱菊だが、わきまえるべきはわきまえており
堅い式典や不祝儀の時は体形に合わせた特注の死覇装を着る。
死覇装は消耗品であるから日頃から常に特注物を着る訳にはいかないが特別な時だけ特注品を身に着け胸元を覆う。
乱菊は身支度を済ますと朝食の支度をしに厨に入った。
冬獅郎が戻ってくると良い匂いがして乱菊が厨から顔を出した。
「帰ったぞ。つか、お前、起きたのか?大丈夫なのかよ」
「大丈夫ですよ。昨夜は気を遣ってくださったのでしょう?」
「あぁ、卯の花に色々聞いた。大変な時に側に居られなくて、すまねぇ。無事で良かった」
「あたしこそ、あなたの子供を危険な目に合わせてしまって」
「十番隊も俺達の子供みてぇなものだからな。お前は、どっちにしても俺達の子供を守っただけだ」
「冬獅郎さん。雛森は?」
「あぁ、卯の花に預けて来たぜ」
「それなら安心ですね。一緒に朝食をと思ったんですが」
乱菊は話しながら朝食の膳を整えて行く。
「いただきます」
久々の乱菊の料理を前に冬獅郎は嬉しそうに手を合わせて食べ始めた。
「それで、どんな具合です?」
「それが白とも黒とも言い切れねぇ」
「あたしのイメージだと藍染隊長が不特定多数の人々のために蜂起なんて、有り得ないんですが。そんな『いい人』じゃないですよね?」
「俺も、そう思う。が、例の思想犯の中心人物の著書を読んでたらしい」
「単なる知的興味で読んだだけじゃないですか?」
「俺も他の奴らも、同じ意見でな。その線で通そうとしたんだ。そうしたら雛森が」
「雛森が?」
「『藍染隊長は素晴らしい方だから人々の窮状を助けたくて、別に中央に逆らうつもりじゃありません』とか言い出してよ。他の隊長、藍染と親しい市丸とか下級貴族の浮竹、いや隊長全部が調査対象らしくてよ」
「隊長もですか?」
「まぁな」
「えぇっ?冬獅郎さんは超ノンポリなのに」
「俺ぁ単純バカだって言いたいのか?」
「いいえ。冬獅郎さんは自ら蜂起しても他人の考えに感化されたりされないだろうなぁと」
「まぁ四十六室に思う所がねぇ訳じゃねぇがな」
冬獅郎も乱菊も仕事を通じて様々な不条理を見聞きしている。
その度に四十六室は『賢人』であっても『聖人』ではないと思う。
権力者が、その権力を己に使っては国乱れる元である。
「それで、どうするんです?」
「一味の奴らに藍染が仲間じゃないと証言させるしかねぇな」
「本当の事を言うでしょうか」
死なば諸共と嘘を言う可能性も高い。
後ひ四十六室の判断に任せるしかない。