冬獅郎が四番隊に着くと隊首自ら出迎え座るよいにと促された。
しかし、冬獅郎は乱菊の事が気が気ではない。何やら資料を捲っている卯の花にたたみかけるように尋ねた。
「それで乱菊の具合は、どうなんです?」
「ああ乱菊さんなら貧血です」
「貧血、良かった」
「貧血を簡単に考えてはいけません。あっありましたわ」
「なんすか?」
「産休、育児休暇についての申請と詳細です」
「はっ?」
「あら、意外と察しが悪くていらっしゃるんですね。おめでとうございます。おめでたですよ」
「本当ですか?」
「嘘を言っても仕方ありませんわ」
「乱菊は、どこです?」
「ああ、3号室です」
「ありがとうございます」
立ち上がると同時に半ば走り出した冬獅郎を微笑みながら見送って卯の花は乱菊の出産へのサポート体制を考えながら注意事項を書き出し始めた。
冬獅郎が病室の近くまで行くと近江屋の番頭が乱菊の病室から出て来た所で、冬獅郎とすれ違い様に
「お嬢様が出産され、産んだ子を見た途端に殺そうとなさいました」
と、囁いた。
冬獅郎は、それに強いて何の反応も示さずに黙って乱菊の部屋に入った。
ベッドで眠っている乱菊は、少し眉を寄せてはいるものの具合の悪そうな様子はない。番頭に何かされたのではと危惧していた冬獅郎は少し安堵した。
○●○●
乱菊は眠りの中でさっき番頭に聞かされた杏の話を反芻していた。
杏は父の商売敵の差し金か習い事の帰り道に無頼の輩に汚されたのだという。
それは何度も繰り返され、なのに杏は習い事を止めず繰り返し無頼の餌食になる。
そして、それがどういう心理なのか門外漢の乱菊には判らないが、いつか絵物語の王子様のような存在が現れ無頼の輩を倒してくれた時、全ての出来事はなかった事になり自分を救い出してくれると信じ込んだのだと言う、それは狂信とも呼べるもので、既に妄想と現実の狭間に居たのかもしれない。
乱菊は夢の中で思う。
想う相手に想われる事の難しさ。
更に、その相手と添う難しさ。
そして、長く連れ添う幸せと
まして子を得る奇跡。
藍染に想われているのだと無理矢理信じ込もうとした桃。
添うたもののしきたりや身分差に苦しめられ、子を為す事もなく最愛の人を置いて逝かざるを得なかった緋真。
想う相手の心を得られず狂気に片足を踏み入れる事で長らえている杏。
窓の外の風の音に女達の悲しい悲鳴が聞こえて来るようで乱菊は我が子を護るように腹を手で抑えた。
「乱菊、乱菊」
風の向こうから愛しい人の声が聞こえる。
目を開けると冬獅郎が頬を強ばらせ青ざめた夫が立っていた。
「冬獅郎さん」
「乱菊、良かった」
「ごめんなさい冬獅郎さん」
「なぜ、あやまる」
「赤ちゃん…今まで気付かなくて。あたししか守ってあげられないのに」
「気にするな。つうか、これから生まれるまでは厳戒体制だ」
「ええ、元気な子を生みます」
「そうだな」
窓の外の風は止んでいた。
しかし、冬獅郎は乱菊の事が気が気ではない。何やら資料を捲っている卯の花にたたみかけるように尋ねた。
「それで乱菊の具合は、どうなんです?」
「ああ乱菊さんなら貧血です」
「貧血、良かった」
「貧血を簡単に考えてはいけません。あっありましたわ」
「なんすか?」
「産休、育児休暇についての申請と詳細です」
「はっ?」
「あら、意外と察しが悪くていらっしゃるんですね。おめでとうございます。おめでたですよ」
「本当ですか?」
「嘘を言っても仕方ありませんわ」
「乱菊は、どこです?」
「ああ、3号室です」
「ありがとうございます」
立ち上がると同時に半ば走り出した冬獅郎を微笑みながら見送って卯の花は乱菊の出産へのサポート体制を考えながら注意事項を書き出し始めた。
冬獅郎が病室の近くまで行くと近江屋の番頭が乱菊の病室から出て来た所で、冬獅郎とすれ違い様に
「お嬢様が出産され、産んだ子を見た途端に殺そうとなさいました」
と、囁いた。
冬獅郎は、それに強いて何の反応も示さずに黙って乱菊の部屋に入った。
ベッドで眠っている乱菊は、少し眉を寄せてはいるものの具合の悪そうな様子はない。番頭に何かされたのではと危惧していた冬獅郎は少し安堵した。
○●○●
乱菊は眠りの中でさっき番頭に聞かされた杏の話を反芻していた。
杏は父の商売敵の差し金か習い事の帰り道に無頼の輩に汚されたのだという。
それは何度も繰り返され、なのに杏は習い事を止めず繰り返し無頼の餌食になる。
そして、それがどういう心理なのか門外漢の乱菊には判らないが、いつか絵物語の王子様のような存在が現れ無頼の輩を倒してくれた時、全ての出来事はなかった事になり自分を救い出してくれると信じ込んだのだと言う、それは狂信とも呼べるもので、既に妄想と現実の狭間に居たのかもしれない。
乱菊は夢の中で思う。
想う相手に想われる事の難しさ。
更に、その相手と添う難しさ。
そして、長く連れ添う幸せと
まして子を得る奇跡。
藍染に想われているのだと無理矢理信じ込もうとした桃。
添うたもののしきたりや身分差に苦しめられ、子を為す事もなく最愛の人を置いて逝かざるを得なかった緋真。
想う相手の心を得られず狂気に片足を踏み入れる事で長らえている杏。
窓の外の風の音に女達の悲しい悲鳴が聞こえて来るようで乱菊は我が子を護るように腹を手で抑えた。
「乱菊、乱菊」
風の向こうから愛しい人の声が聞こえる。
目を開けると冬獅郎が頬を強ばらせ青ざめた夫が立っていた。
「冬獅郎さん」
「乱菊、良かった」
「ごめんなさい冬獅郎さん」
「なぜ、あやまる」
「赤ちゃん…今まで気付かなくて。あたししか守ってあげられないのに」
「気にするな。つうか、これから生まれるまでは厳戒体制だ」
「ええ、元気な子を生みます」
「そうだな」
窓の外の風は止んでいた。