※逐語訳はしておりません

 意訳したり盛っている部分もございます

 あらかじめ御容赦ください

 

 


今は昔、高麗より日本にやってきた僧がいました。

名を道登といいました。

奈良の元興寺に住みました。

「功徳のため、宇治川に橋をかけよう」

と思う心があり、建造にかかりました。

 

 

北山階という所に、恵満という僧侶がいました。

道登さん、恵満さんのところに用事があって出掛けます。

奈良の元興寺に戻ります。

 

奈良坂山を通ったところ。

「あれ、何ということだ」

道端に髑髏が転がっていて、人に踏まれています。

道登さん、これを見てかわいそうになった。

従者の童子を呼んで、この髑髏を取って、木の上に載せました。

せめて踏まれないようにしようという配慮です。

 

 

さてそうやっているうちに12月になり大晦日。

夕暮れ方になって、元興寺の門に来客がありました。

「道登大徳の童子にお会いしたい」

 

童子は取り次ぎからそのことを聞いて、僧房を出て門まで向かいます。

しかしながら誰なのかさっぱり分かりません。

「お会いしたことあったでしょうか?」

 

その人はお構いなしに童子に語ります。

「私はあなたの師である道登様の大徳の

 恩を受け、長年の苦から逃れ安らかな

 身となることができました。

 そして今夜でなければそのご恩をお返し

 することができません。

 申し訳ないのですが、少々お越しいただけ

 ないでしょうか」

 

と言って、童子を連れていきます。

童子もわけがわからぬまま一緒についていく。

里にある一軒の家にたどり着きました。

 

請われるままに家に入ると、

「さあどうぞお召し上がりください」

たくさんの食事を用意してくださいます。

自らも食べるので童子もいただくことにしました。

 

そうやっているうちに夜も更ける。

すると何か人のやってくるような足音がします。

 

(こんな時分になって?)

不審に思う童子に、この招いた人が話しかけます

「私を殺した兄がやってきました。

 私はすぐに出て行きます」

 

「????」

童子、意味が理解できない。そりゃそうだ。

 

「一体どういうことなんですか?

 さっぱり訳が分かりません」

 

男は説明してくれます。

「私は昔、兄と一緒に商売をしてあちこちに

 行っていました。

 上手く儲け、銀四十斤を手に入れたのです。

 そしてそれを持って兄と共に奈良坂を

 通る時に、兄は銀を欲しがりました。

 独占するために、私のことを殺したのです。

 そして家に帰り、母には

 『弟が盗人に殺された』

 と語ってごまかしたのです。

 

 私の死骸はうち捨てられたまま。

 長い年月を経て骨だけになり、髑髏が

 あの道に転がり出ました。

 そして道行く人達に踏まれていたところを

 あなたの師匠の道登様がそれをご覧になり

 憐れみの心を以て私の髑髏を木の上に置き

 その踏まれる苦しみから逃れさせて

 くださったのです。

 

 そのご恩を忘れたことはございません。

 だから今夜、あなたのためにお食事を

 用意したのです。

 召し上がっていただくためにここに連れて

 まいりました」

 

(後半に続く)