乃木希典大将を痛烈に揶揄した芥川中期の短編。角川文庫「薮の中・将軍」が一番求めやすい。
芥川としては珍しい××(伏字)が多い作品。
当時、軍神とよばれた将軍を、これでもかと言うほど諷刺している。
例えば間諜を処刑する際の将軍の残忍な眼、またピストル強盗の三文芝居に涙を流し感動する将軍の浅薄さ、等低俗な人間に引き摺り下ろしたい作者の熱意にユーモアはない。
これに対し小林秀雄が「歴史と文学」の文中で実に正鵠を射た批判をしている。
「学生時代は面白く読んだが、今や何の興味も持たない」「作者が技巧を凝らせば凝らすほど、将軍のポンチ絵のようなものが出来る」と批判する一方、同じく将軍を評したウォッシュバンに対しては「ポンチ絵を描いているがこの異常な精神力を持った人間が演じなければならなかった異常な悲劇というものを洞察しこの洞察の上に立って凡ての事柄を見ている」と理解する。
続いて、将軍の「心労痛苦の皺や容貌の変化、胸底に圧し殺した人間」を描かない文学なぞ「思いつきの文学」である、と斬り捨てた。

芥川も若かったのであろう。小林の批判こそ至言であると考える。