あるところに、おしゃべりが大好きな成瀬順という女の子がいました・・・。
その女の子は山の上にある大きなお城に憧れて、将来そのお城に行って
素敵な王子様とめぐりあうことを夢見ていました。
そんな女の子の物語。
ある日、大きなお城を見るために綺麗な門があるところにいくとその中から少女の父親と
きれいな女の人が出てきました。少女は驚きつつも自分のお父さんが王子様だったことにとても喜び走って家に帰る。
「お母さん!!お母さん!!さっきね!お城にいってきたの!!そしたらね・・・っ!?むぐ・・・っ」
「あーん」
あせって話す少女に母親が作っていたたまごやきを少女の口に押し込む。
「・・・美味しい」
「ほんとにあなたもたまご焼きが好きね、ぱぱもこれが昔から大好きなのよ」
母親が笑顔で少女に語りかける。
卵焼きを食べ終わった少女が思い出したように言う。
「そう!さっきね、お城にいてね!パパがお城から出てきたんだよ!」
先ほどの笑顔とは一変して、表情が曇る母親に対し、少女が続ける。
「パパって王子さまだったんだね!!あ、でもママはお姫さまじゃなかったのは、ママはパパのお弁当作ってたから舞踏会これなかったの?あ、実はママ魔女だったりして!!」
無邪気な笑顔で続ける。
母親は少女に二つ目の卵焼きで口を封じる。
先ほどのやさしい食べさせ方とは違い、暴力的な食べさせ方だった。
「・・・順、そのこと、誰にも言っちゃ、駄目。・・・・・・駄目、もう二度と、喋っちゃ。」
次の日の朝、順は引越し屋の声で目が覚める。
なにやら、父親と喋っているようだ。何か異変に気づいた順は階段を降り、父親のところに駆け込む。
「パパ!・・・どこいくの?遠いところいくの?」
小さいながらに何かを感じ取ったのか、不安そうに聞く。
順の声にきづいてるにもかかわらず、会話を続ける。
「これで荷物全部ですか?届け先はxxxxxxでいいですね?」
「・・・はい。よろしくお願いします。」
「ぱぱ・・・?あ、あ、ママとけんかしたの?なら順が、順が仲直りさせてあげるからどこもいかないで!ぱぱ!」
順がうっすら目に涙を浮かべながらいうと、後ろで窓から母親がその会話を見ており、
父親にわかるようにカーテンをしめる。
「・・・順、お前は本当におしゃべりだな。・・・・・本当に」
そういって父親はどこかにいってしまった。
順は泣きながら、お城の近くの町を見渡せる坂道ですすり泣く。
「順の王子様・・・いるならきてよ・・・今・・・助けにきて・・・・・」
すると、坂の手すりから何かが転がってくる。卵だ。
顔のついた、小さなハットをかぶった奇妙な卵がそそのかす。
「私が王子だ。ようこそ姫」
順を元気付けようとしているのか、少し崩れた言い方で話す。
「私の王子様はそんなにツルツルじゃないし、おならくさくないもん。」
悪意のこもった声にガラっと変えて
「ひどく口が悪いなぁ・・・?本当におしゃべりだな、君は。」
「卵まで順のことそういうの!?なんで・・・なんで!」
甲高い声が響く。それに対し、卵はいっそう落ち着かせて続ける。
「君は今後そのおしゃべりのせいで、胡散くさいキャッチセールスにひっかかり、アスファルトで固められ海に沈められ・・・それはひどい仕打ちをされるだろう」
「・・・私、そんなのやだよっ・・・おしゃべりどうすれば直る?」
すっかり卵を信じきった順は、卵が話すのを待つ。
「・・・そうだなあ、私が君のおしゃべりを封印してあげるよ。」
そういうと奇妙な卵の妖精は順の口を手でつかむそぶりをし、チャックを閉めるのように横に手をひっぱる。
「じーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
ふざけているのか、閉める効果音に音楽性を持たせて順の口にチャックをした。
順は卵が口を閉めるそぶりをし終わったのと同時に、泣き止むのをやめた。
高校2年生の春、重い足取りではあるが、見慣れた風景の道を通り学校に向かう。
ちょうど上り坂をあがっている最中、坂の上からいろいろな柄の卵が転がってくる。
「ちょっと、そこのお兄ちゃん!その卵を拾うの手伝ってくれ!」
不意に50~60歳くらいだろうか、じいさんに呼び止められ、あわてつつも卵を拾う。
すべて拾い終わり、学校に行こうとする。
「せっかくだから、こっちに運んでくれんか!君の名前教えてくれ」
図々しい老人だ、そう思いながら嫌々ではあるが、卵を運びながら答える。
「・・・坂上拓実」
「そうか!坂上くん、この卵にみんな自分の願いをこめて、神社につるすんだ。
君が拾ってくれたおかげで助かったよ。君もどうだ?なんでもいいんだ。お金持ちになりたい。でも嫌いなやつを殴りたい。でもなんでもだ」
「願いをこめたら、どうなるんですか?」
「そりゃあ、なんらかの御利益があるんだろうさ」
馬鹿らしい話だ。そう思い軽い相槌をし、学校に向かう。
HRのチャイムがなり、俺らの担任であり、音楽教師である城嶋一基が
クラスに入ってきたときに「そろそろ席につこうか~」という一声で静かになるのが
毎朝のこのクラスの日常だ。
しまっちょ(城嶋 一基の生徒間のあだ名)は、基本ゆるい教師であり、生徒からも好かれている。
「今日は、前のLHRで決まらなかった地域ふれあい交流会の役員きめるぞーい」
えええ、とクラスみんながざわつくのを気にもとめず、
「ぜひ私こそ!っていうすばらしい人挙手!5秒以内ね~」
周りがざわつくのはどうせそんなやつ、いないだろうということだ。
「え~、いないの~?・・・まあ、そういうと思って俺もうふれ交の役員決めてきたんだ~!」
ふれ交というのは、「地域ふれあい交流会」の略であり、毎年近所のおじいさんおばあさんしかこないので
生徒もやりたがらず、各学年に一クラスやることになっているものだ。
そう言うと、ポケットからしまっちょは紙を出して、黒板に役員の名前を書き始めた。
「 坂上 拓実 成瀬 順
仁藤 菜月 田崎 大樹 」
あたりがざわつき、
「え、なつきやるの?」 「だいちゃんもやるの?」
どんどんざわつきは大きくなり、歯止めが利かないほどの声量になったときに、田崎大樹が席を立ち上がりあからさまに不機嫌そうな顔をして言う。
「ふざけんじゃねーよ!何で俺が・・・もっと暇そうなやつにやらせればいいだろ!俺やんねぇかんな!」
この一言に歯止めの利かなくなったざわつきが一瞬で収まる。
しまっちょが普段どおりの口調で答える。
「俺は立派な先生だからそういうひいきはしないのー!」
「なにがいいたいんすか?」
「やってね?これ、一応命令だから。」
大樹が納得していないのが、見るからにわかるまま、席に着く。
あたりが落ち着いてきたときに、突然一人のクラスメイトが席を立つ。
成瀬順だった。
立ち上がってからかなりの間をおいて、声にならない声で話し始める。
「・・・ぁ、・・・の!・・・・・・できっ・・・・・・」
一気に順の顔色が悪くなり、今度は少しの間をおいて、教室から出て行ってしまった。
「・・・初めて、成瀬の声聞いたな」 「あいつしゃべれるんだな・・・」
クラス全員が驚き、ぽつりぽつりとつぶやく。
しまっちょが珍しく、困った顔をして
「とりあえず、今日はこれで終わり!頼んだぞー」
そのまましまっちょは、すぐ普段の調子にもどって、教室を出た。