アンダードッグ 後編 | 瀬戸内ログ

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個人的備忘ログ。主に映画の感想記録。極力ネタバレ無し、と思って書いてきましたが、備忘録なのに制限かけるとか面倒くさくなったので好きに記録する事に変えました。ネタバレを含むのでご注意を。
当面、多忙につき映画鑑賞記録が疎かになります。

【 アンダードッグ 後編 】

ポスター画像

武正晴が監督、原作・脚本は足立紳のコンビ作品。

落ちぶれたボクシングのかませ犬、育児放棄から孤児院、そして闇の世界へと落ちながら、ボクイシングをきっかけに浮上を夢見る若き天才ボクサー、何不自由なく暮らしてきながら、『二世』、『ぼんぼん』と決めつけられ覆せないまま生きてきたものの、ボクシング企画をきっかけに生まれ変わりを決意した芸能人。

彼らは何故生まれてきたのか、彼らの生きる証や意味は何なのか。

淀みに淀んだ前編から彼らは抜け出すきっかけを掴むのか、彼らが何かを見つけるのか。苦悩の前編に続く後編。

 

131分の前編に引き続く145分。ABEMATV・東映ビデオ制作。

ABEMAプレミアムではこの前後編をさらに補完する合計350分、全8話形式にて配信される。

 

 

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懸命にリングに立ち続けているその瞬間瞬間にこそ最も光り輝く彼らの存在証明は尊いし納得もするのだけど、そこに至るまでのバイアスとは少し空振りに近い形でズレが生じていたように感じてしまった。監督のチャゲアス愛はとても伝わってきたんですけど。

 

足立紳さんの持ち味とでも言うんでしょうか、何人もの登場人物の複雑なストーリーを巧く編み上げていくスタイル。脚本の巧さは安心して観ていられるんですが、それも良いキャスティング、良い演技があっての事。

①輝かしい過去を持つもピークをとっくに越え今やかませ犬のようになってしまっている主人公

②主人公との過去の接点を胸に秘め、自身の暗い過去と決別し大きく輝く為に闘志を燃やす若き天才ボクサー

 

主たる柱はここなんです。そこに

③二世芸能人、何不自由なく育ってきて、なんとなく芸能界に入ったものの当然全く芽の出ないまま死んだような生活を送るタレント。

勝地涼演じる彼の役どころ、これ正直そんなに必要無かったのでは無いか。複数のアンダードッグを描く一端としては効果があったものの、割と長い尺を使って登場させた割に主人公の落ちぶれぶりを描きたかったのか、それとも二流芸人が自身の弱さと決別するシーンを描きたかったのか、おそらくその両方を描きたかったんだとは思いますが、笑い要素の強すぎる友近(これ武監督作品のホテルローヤルでも犯した失敗だと思います)の出演、ジャッキーンちゃん(個人的には大好きですが)、バッファロー五郎木村(A)など、作品に必要だったとはいえエンタメ要素の強さとアンダードッグフィルムとの相性が決して良かったとは思えませんでした。

ただ、そんな中でもロバート山本、彼はその役どころもありますがただのイロモノで終わらず好演できていた。彼は役者で十分やっていけると思いました。ど素人意見ですけども。

 

④主人公晃と腐れ縁、デリヘル店を営む木田役の二ノ宮隆太郎とソノパートナー兼子演じる熊谷真実さん。社会の暗部、そのさらに底辺の彼らの物語。この二人の好演は良かった。彼らのストーリーも割と尻切れトンボではありましたが本編の良いエッセンスになっていました。

 

⑤木田の店で働くことになった明美(瀧内公美)とその客 田淵(上杉柊平)、龍太との過去の事件のせいで車いす生活を送る事になった田淵のエピソードは龍太の元ヤンという設定を基軸に、物語にドライブをかける良いエッセンスとなっていたものの、それまで苦しみ続けてきた田淵にはほとんど光が当たらないまま終わってしまう。事件までの田淵はどうだったのか、その後どうなるのか、彼の心に再び光が宿る日はくるのか。この物語も少し物足りないままフェードアウト。

 

⑥晃の妻佳子(水川あさみ)、苦労に苦労を重ね、晃を支え続けたがいつまでもうだつの上がらない夫に頼らず生きていくために自立した女性。再婚をチラつかせ、完全に見切りをつけているはずなのに妙にまだ未練を残す描写などが入る。

離れて暮らす父を尊敬する息子との物語も悪くは無いが、おそらく一番苦労したのは妻の佳子でもあったはす。素晴らしい役者の彼女をもっとしっかり据えて描いて欲しかったという不満が残った。

 

 

前後編。275分に及ぶ長編ながら、蓋を開けてみれば

『ABEMA プレミアムで全8話、さらに詳細を描く合計350分の物語にして公開します』

と言われてしまって、なんだよと。

 

ハナから350分設定なんじゃないのかと。

 

異様ともいえるくらい長かった我慢のフェーズと、それに対しもう一つ爆発力に欠けた後半。

それぞれは魅力的な話ではあったがもう一つ絡み切ることなく放っておかれたようなサイドストーリー。

致命的だった箕島ジムの会長役の長遣いだけでなく、どうもストレスのたまる展開は元々8話の作品を無理やり縮めたからではないのかと。

 

SEXシーンもやたら多かったしテレビ的な色づけがかなりされていて、相対的に評価の高かった割に個人的にはあまり奮わなかった印象はそういう部分からもきていたのかなと感じました。

 

アンダードッグフィルムの金字塔、『ああ荒野』、や『宮本から君へ』 の足元にも及ばない作品であったなと残念に思いました。

半日費やしたのに。

導入は良かったしラストの『うまくまとめられた』感、森山さん、北村君、水川さん、熊谷さん、二ノ宮君らの演技は良かったが、明らかに題名負けしている作品という印象でした。

 

制作側には大変申し訳ないが、今後配信ありきのABEMA作品とかキャスティングやストーリーを練り上げる力が弱いと感じてしまう武監督作品はもうパスするかなと。