学校生活 43−3      コンプレックスからの立ち直り 

 

 

話をハゲに戻します。

 

ここで言いたいことが一つあります。

 

この公立中学校、荒れていたのですが、生徒から、あるいは仲間の教師からハゲのことを言われたことは一度もありませんでした。

 

みんな自分のことで必死に生きていたのです。

 

生徒も教員も。

 

人のハゲに関わっている暇な人などいませんでした。

 

これ意外と重要な事でした。

 

人をからかったり、お笑いのネタにするのは暇という余裕があるからなのでしょうか。

 

こんな事をその時考えました。

 

通勤も実家から徒歩なので電車にも乗りません。

 

だからハゲをからかわれたことはありませんでした。

 

この中学校に勤めていた頃はハゲの心配よりも屋上に自分が呼び出されていつ殴られるかの心配の方が勝っていました。

 

私は日々の忙しさに追われてすっかりハゲのことを忘れていたのです。

 

そう、

忙しいとコンプレックスは忘れるのです。

 

この中学校での生活は身の危険はあるもののコンプレックスとは無縁の生活でした。

 

しかし、その後がいけません。

 

私立の慶應義塾普通部(中学校)に転任しました。

 

ここでの洗礼はまず、年上の先輩先生からでした。

 

「あんた、なんでカツラ被らなかったの?ちょうどいいいタイミングだったのにね」

 

これには本当にショックでした。

 

まさか同僚からそんなこと言われるとは思っても見ませんでした。

 

授業でも暇な生徒がいました。

 

座学と違って技術の授業は基本、生徒は歩き回ります。

 

私の背後に回って薄くなった、てっぺんに息を吹きかけるのです。

 

毎朝、丁寧に鏡に向かってハード・ヘアー・スプレーを吹きかけてバーコードを撫でてきたのに、これではハゲがあらわになってしまいます。

 

それから、電車通勤。

 

ある時、出口のそばに座っていると女子高校生が数人乗り込んできました。

 

こちらをぎょろぎょろ見ています。

 

やな感じがしました。

 

するとやおらに一人が大声で言いました。

 

「あのウチの教頭、バーコード丸見え!馬鹿じゃねえの!」

 

勿論、私のバーコードを見ながらニヤニヤしていました。

 

この子たち、早く降りないかな。

 

そんな思いで全身が汗でびっしょりになりました。

 

それ以来、つるんでいる女子高校生は苦手になってしまいました。

 

私はハード・スプレーの奴隷になってしまったのです。

 

地下鉄は怖いです。

 

あの物凄い風が頭を直撃します。

 

一度、あの風でカツラが吹っ飛んだ男性を見たことがあります。

 

男性は電車が過ぎ去ったレールの上をとても残念そうに見つめていたのを思い出します。

 

そして、ハゲがうまく隠せない日は一日中ブルーになってしまいました。

 

恐らくこれが「鬱(うつ)」なのでしょうか。

 

恐らく「鬱」になりかけていたのは確かです。

 

少しのことでも怒る人になってしまったのです。

 

まだ続きます

 

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