教師塾 10         品格あるいは「気品の泉源」 

 

若い教師に言っていた事。

 

生徒に対する言葉遣いに気をつけよ。

 

一番耳についたのが「めし食ったか?」

 

気さくとは違う。

 

「食事したか?」ぐらいには言いたい。

 

「食っちまえ」なんて言うのは言語道断。

 

言葉使いというものはその人のお里が知れるもの。

 

育ちのいい人はしたくても悪い言葉使いは出来ないものだ。

 

私みたいに育ちが悪い者は努力で矯正するしかない。

 

無意識レベルだとつい悪い言葉が出てくる。

 

この矯正も教師の努力義務のひとつかな。

  

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宿泊を伴う郊外授業での食事。

 

慶應義塾普通部では伝統的に「襟のあるシャツ」を着ていないと食事ができない。

 

私も若い時は食堂の入り口に立って生徒の服装テェックをしたものだ。

 

Tシャツなんぞ着てくる者は直ちにUターン。

 

当時の私には何故、Tシャツがいけないのかどうしても意味がわからない。

 

ところがある時、若い先生がTシャツ姿で食堂に現れた。

 

生徒をUターンさせている私を尻目に。

 

流石に同僚には言いづらい。

 

年配の先生がそっと言ってくれた。

 

彼は照れながらUターン。

 

しかし、若い先生の数が増えるにつれてTシャツ組の先生がにわかに増えてきた。

 

そうなると私も含めて徐々に咎める人も少なくなった。

 

生徒のTシャツはこうして段々と黙認されてきた感はある。

 

現代では一流ホテルのラウンジでもTシャツやジーパンは許されるのと同じか。

 

あれはビートルズのジョン・レノンからかな。

 

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英国の名門パブリック・スクールの門には門番がいる。

 

レプトン・スクールで見た光景。

 

彼はさまざまの勲書みたいなものをぶる下げていた。

 

プライドの塊みたいなお爺さん。

 

生徒の遅刻と服装テェック。

 

昔見た「チップス先生さようなら」の光景が今でも残っている。

 

どんなにヨレヨレでもジャケットを着て、ひん曲がっていてもネクタイをしている生徒はパス。

 

それ以外は寮に返される。

 

最低のドレス・コードなのだろうか。

 

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知人から聞いた話。

 

葉山で有名な「ラ・メール・茶屋」でのこと。

 

この人は逗子の海で遊んだ帰りに寄ったのでビーチ・サンダルを履いていた。

 

入り口で店の人からデッキ・シューズを渡され面食らった。

 

サンダルはこの店ではご法度らしい。

 

ここのオーナーは石原裕次郎さんと親しかったらしい。

 

裕次郎さんは海の男だからデッキ・シューズなのかな。

 

この店では裕次郎さんにちなんでデッキ・シューズを用意していると聞かされた。

 

これも店の最低のドレス・コードなのか。

 

鎌倉山ロースト・ビーフの店でもビーチサンダルはお断りされた経験がある。

 

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そういえば、銀座の交詢社(福澤先生が作った慶應義塾の社交クラブ)ではネクタイをしていないと受付のお爺さんからループタイを渡される。

 

これもドレスコード。

 

でも、私の同僚は頑なにネクタイをしない。

 

だから毎回、ループタイを借りる。

 

私はというと彼と違ってルールに流される。

 

きちんとネクタイを締める。

 

どちらが自由なのか、いまだに私にはわからない。

 

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慶應義塾普通部の「襟付きシャツ」、今でもこの伝統は続いているのだろうか。

 

そういえばこの間、京都下鴨神社のそばの三井別邸に行ったら、入り口で靴下が売られていた。

 

私は普段からあまり靴下を履かない。

 

やむおえず、それを購入した。

 

受付の人にそのことを聞いたらこの館は重要文化財なので素足を禁じているとのこと。

 

重要文化財のお寺でもお坊さんは素足なのになと納得はいかなかった。

 

でも、これもドレス・コードなのかな。

 

そこに行くときはいつもそこで買った簡易な靴下を持参している。

 

慶應義塾には「気品の泉源、智徳の模範」という福澤先生の言葉がある。

 

ドレスコード、私はいまだに未解決。