学校生活23 箱根細工
普通部の会報誌より私の文を抜粋しました
(少し加筆しました)
箱根細工
一年より継続で「秘密箱」が出展されていた。
箱のカラクリも仕上がりも良く、製作日誌wも良くまとめられていて中々の取り組みでああった。
仕上げの箱根細工特有の「経木(薄く剥いだモザイク模様の紙みたいなカンナ屑)」も自作だったら更に良かったかもしれない。
箱根細工は神奈川県の伝統工芸の中でも有名なものの一つであり、その手法は大きく分けて二つある。
一つは板を用いた細工もの。
もう一つは木工ろくろを用いた挽物である。
今回の「秘密箱」は細工ものにあたる。
しずれにしてもその特徴は木材の精密加工技術にある。
「秘密箱」の様なカラクリ仕掛けは洋の東西を問わず人気が高く歴史も古い。
我が国では京都から呼び寄せられた職人集団が根付いた飛騨高山の人形カラクリが有名である。
しかし、今のように電動工具が存在しなかった時代に精密加工を施すのは本当に大変だったと思う。
箱根の秘密箱には独特のモザイク文様が施されいる。
この文様加工を寄木細工と言う。
寄木細工はもともと木端(こっぱ・・・捨てる端材)を再利用して始められた細工である。
今風に言うとリサイクル産業である。
箱根には色とりどりのきが自生していたので、形、色をうまく考えて麻の葉の様な日本の伝統柄を基にデザインしていた。
所定の形に加工した材料を膠(にかわ)で接着して塊(かたまり)を作り、それをスライス加工するのである。
このスライス加工には二通りがある。ノコで厚めに挽くタイプ。
大きな鉋(かんな)で薄くスライスするタイプ。
今回の「秘密箱は」後者の薄い経木の様なものを貼り付けたのだ。
この方法は大量生産ができる。
何と言っても塊から何枚もの経木が取れるから。
これはちょうど一枚の絵画に対して版画やリトグラフの様なもの。
前者の塊のままノコギリで所定の厚さの板紙したものは「ズク」と呼ばれている。
これは大量に出来ないから貴重な材料。
次に箱根細工のもう一つのジャンルであるロクロ細工について。
数年前、箱根で独楽(コマ)を作っているお店を訪問したことがある。
神奈川で独楽と言うと大振りの阿夫利神社(あふり神社)の「大山独楽」が有名だが、こちらのは小さいものが多い。
やはり精密加工が伝統だからだろうか。
5ミリぐらいの独楽を鮮やかにロクロで挽く樣ははまさに神業。
この独楽、ピッタとセンターが出ていて良く回る。
こういう小さい挽物技術を利用して昔からミニチュア食器や家具を作っている。
これは西洋のドール・ハウスの様なもの。
私には箱根細工は幼少の頃からポピュラーである。
とりわけ寄木の秘密箱には馴染みがある。
山下公園付近の横浜の海外向けのお土産店には必ず置いてあった。
外国人には「箱根」と言う響きは「京都」と並んで日本らしいのかもしれない。
外国戦が発着する大桟橋のターミナルの売店にもあった。
寄木の茶色とアイボリーのコントラストはチェスの盤のようで独特の味がある。
その独楽を作っているお店には大きな落花生型のロシア人形(マトリューシュカ)が飾ってあった。
人形の頭を開けるとその中からまた一回り小さな人形が出てきた。
更にまた小さな人形が出てきた。更に更に。
その隣にご主人がロクロ挽きした、りんご位の大きさの木製の卵が安置してあった。
その卵には七福神が描かれていたり、フクロウが描いてあるものも。
これも卵の三分の一を開けるとまた小さな卵が出てきた。
先程のロシア人形と同じ入れこ細工であった。
しかもこちらの方が遥かに精密。
吸い付くよう。まるで茶道で使う棗(ナツメ)見たいだ。
ピッタリと蓋が合っている。その精密さには驚かされた。
実はこの箱根細工がロシア人形のルーツだったらしい。
驚きである。件(くだん)のご主人の言葉。
「もう、跡を継ぐ職人はいなくなる。」
その言葉に一抹の寂しさを覚える。