学校生活 9
学校に〇〇書店から一本の電話が入りました。
「おたくの生徒が本を万引きして今、預かってます。」
保護者の方に連絡をして迎えにきてくれということでした。
この日は、たまたま生徒指導は私だけだったので保護者と連絡をして引き取りに行きました。
P君はスポーツ万能。
私の授業中もよくダジャレを言って絡んできます。
どう考えてもそんなことをするような生徒ではありません。
〇〇書店の奥の暗い一室にP君はしょんぼり座っていました。
万引きした本は英語の参考書。
ますます、わけがわからないなりました。
お母様はひたすら店長に平謝り。
その場で代金を支払っておられました。
私たち三人は店長にこってり絞られました。
私はお母様と彼と三人で一旦、学校に戻りました。
生徒係の部屋で私は彼とだけお話をしたい旨をお母様に伝えて別室で待ってもらいました。
私の「どうしてこんなことやったの?」というおざなりの質問に彼は終始無口でした。
私の脳裏には明日の授業で顔を合わせるのがお互いにキツイなと浮かんきました。
万引きについては色々な見解がありますが盗み癖なんていうのもあります。
彼がそうとはどうしても思えません。
親に対する当て付け?うっぷんはらし?
私は咄嗟にこれ以上彼を追求することは意味がないと思いました。
「お母様と少しお話をしてくるから」
別室のお母様は私にも平身低頭。
「無理に彼を責めることはせずに今日は疲れているので食事をさせて休ませて下さい」
「お父様にもその旨をお伝えくだだい」
お母様と生徒指導室に戻ると、彼の姿がありません!
私は慌てました。
凍りつきました。
とっさに彼のクラスルームに行きました。
いません。
屋上、目指して鬼のように駆け上がりました。
彼は自存心が強うタイプだから心配!
教師というのは時々こんな馬鹿なことを考えることがあります。
いました!彼が手すりに待たれかかっていました。
心臓がバコバコしました。
一人にするなんて。
完全に私の失敗!初歩的な失敗!
「先生、ごめんなさい。外の空気が吸いたくなって。今日はすみませんでした」
私は何も言わずに肩をポンと叩いて下に行くことをうながしました。
顔面蒼白のお母様と彼を合わせ、帰ってもらいまいた。
しばらくして、お母様からお電話を頂きました。
私の言ったことを守って両親ともに彼を追求しないことにしたそうです。
翌日、授業で彼と顔を合わせました。
ことらを見て照れ笑いのようにニコッとしていました。
きっと彼に聞いてもどうしてそんなことをしたのか答えられないかもしれません。
本当に出来心だったと思います。
ただ彼の心に残ったものは後悔の念だけだったような気がします。
人は時々、訳のわからない行動をするものです。
そして、失敗した時は時間を戻したいと切望する生き物です。
こんな彼に今、必要なのは叱責ではなく、ただ抱きしめてやることぐらいかもしれません。
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