ヤマアラシ症候群
ある寒い日、二匹のヤマアラシが互いに身を寄せ、暖まろうとした。

ところが、近づきすぎると、互いの針で相手を傷つけてしまう。

しかし、離れると寒い。だから、近づくこともできず、離れることもできず、結局は適度な距離を保っているしかない、、、

そんな状態をヤマアラシのジレンマという。

現代的な人間関係をヤマアラシの関係に例えた言葉である。

人間、親しくなって近づきすぎると、互いに傷つけ合うことが多くなる。だから、現代人の多くは、近すぎず遠すぎず、適度な距離感を保って、人間関係を維持しようとする。

しかし、ときどきこのバランスをうまくとれない人がいる。

それがヤマアラシ症候群だ。

Aさんは一人っ子で、両親の大きな期待を背負って育てられた。

中学、高校といわゆう受験校に通い、学校以外で友達と遊ぶ機会は少なく、勉強に明け暮れた。

試験の成績が上がること、あるいは落とさないことが、最大の関心事だった。

やがて、望みどおりの一流大学に進学し、望みどおりの一流企業に就職した。

そこまでは、順調だった。

ところが、社会に出てみると、問題が起こった。
彼はささいなことで、周囲と衝突してしまうのだ。

一つひとつは小さな話なのだが、
彼は何でも自分の主張を通そうとして、人間関係をギクシャクさせてしまう。

しかも、彼はそういう人間関係上のトラブルに慣れていない。
じょじょに対人関係に慎重になり、周囲を遠ざけようとする傾向が出てきた。

まるで、ヤマアラシが針をとがらせ、背中を向けている状態だ。

彼自身も、イライラして神経が休まらない。

ヤマアラシ症候群の多くは、子供のころの環境や、その育てられ方に原因があると見られている。

過保護に育てられ、親が何でも思いどおりにしてくれることが多かった、近所に一緒に遊ぶ友達がいなかった。そんな人が、この症候群に陥りやすい。

たしかに、いまは昔に比べて、子供時代に人間関係を学びにくくなったといえる。

兄弟の数は少なくなり、一人っ子も増えている。

近所の広場に集まって遊ぶよりも、一人でゲームをして過ごす時間が長い、という子供が多数派だろう。しかも、地域社会のつながりが希薄になって、親と先生以外の大人と接する機会は少なくなっている。

ヤマアラシになるには、それだけの歳月がかかっているわけで、
それだけに治療にも時間がかかる。