種族を超えた愛というものは存在するのだろうか。
 私は、存在すると信じている。
 中学時代、学年中の皆からバイキン扱いされて仲間はずれにさりれてい

た私に、野良犬の「ホネ」は優しかった。特別餌を与えていた訳ではない

のに私の前でゴロリと転がりお腹を見せて「服従のポーズ」をしたり、膝

を壊して松山の病院に通院している私の見送りと出迎えをするため、伊予

鉄の駅まで必ず来てくれた。
 私は「ホネ」が好きだった。
 優しい「ホネ」が好きだった。
 いざとなると牙をむき出しにして、縄張り争いする「ホネ」をしかりつ

けても、彼は私には優しかった。
 喧嘩をして右の後ろ脚を噛み砕かれた時、私は半狂乱になって「ホネ」

の看病に精を出した。結局傷は治ったが、後ろ足はびっこを引くようにな

った。
 その彼とよく夕方散歩した。
 今、思えぱデートである。
 六年一緒に過ごした後、「ホネ」は姿を消した。
 私は泣いた。このまま死んでも良いと思うぐらい泣いた。どれぐらいそ

うしていたろう。ある時、ふと気付いた。足元がやけに暖かいのだ。
 エリザベス・キューブラロスという医学者が『死の瞬間』という本で書

いている。
  死は終わりではない。
  蛹が蝶々になるようなものだ。
 「ホネ」もそうなのだろう。今は自信を持って言える。「ホネ」は別の

何かになって私の傍にいてくれているのだと。そして見守ってくれている

のだと、今日も信じて逞しく生きて行こうと思う。