二日酔いには「しじみ」 永谷園みそ汁新市場開く
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店頭に並べられた「1杯でしじみ70個分のちから」。ビールやおつまみとの合わせた陳列で消費者にアピールする =東京都中野区のキッチンコート東中野店(写真:産経新聞)



【開発ヒストリー】



 じみのみそ汁はやっぱり二日酔いに効く!? しじみに多く含まれ、肝臓の働きを助けるアミノ酸の一種のオルニチン。この成分を含んだ永谷園の即席みそ汁「1杯でしじみ70個分のちから みそ汁」が消費者の支持を集め、機能性即席みそ汁市場という新ジャンルを切り開いた。開発は、研究室で偶然発見された乳酸菌から始まった。



 ■偶然見つけた乳酸菌



 平成19年11月、東京都大田区にある永谷園の研究室。あるアミノ酸を生成する乳酸菌を探していた研究員が、分析装置の画面に映し出されたグラフに、想定外の「山」ができていることに気づいた。このとき培養されていた乳酸菌が「L・ブレビス9E53」。想定外の山はオルニチンが生成された証しだった。



 オルニチンは肝臓内でアンモニアを分解する過程で重要な役割を果たす。摂取すれば肝機能を活性化させ、二日酔いや疲労を回復させる効果があるとされる。



 熊谷道正研究部長は「オルニチンといえば、しじみというのがわれわれの間では常識。しじみと言えばみそ汁ですから、『あさげ』などの即席みそ汁を手がける永谷園にはぴったりのアミノ酸だった」と発見当時を振り返る。



 しかし、偶然から始まった商品開発には大きな障害があった。それは食品として必須の要素といえる「味」だった。



 みその生成に必要な材料は大豆、麹(こうじ)、塩、酵母。ここに発見された乳酸菌を加えれば、オルニチン入りのみそができるが、乳酸菌を加えたことでどうしても味に酸味が出てしまう。研究室で初めて出来上がったオルニチンみそは「とても食べられないひどい味だった」という。



 ■肝臓疲れの社長プッシュ



 熊谷部長が20年4月の部門長会議で肝臓に効くみそ汁の開発を提案したときも、役員たちの反応は今ひとつだった。専門家の間では有名なオルニチンだが、役員の大半はその存在を知らなかったからだ。



 そんな中で、数少ないオルニチンの理解者が町田東(あずま)社長だった。外部との付き合いで飲食の機会が多い町田社長は肝臓の疲れを気にする中高年の一人。すでにオルニチンのサプリメントを試しており、その効果を実感していたのだ。町田社長の「研究を進めよう」という一言で、本格的な商品開発が動き出す。



 初期段階のオルニチンみそには酸味以外にも弱みがあった。発見された乳酸菌はみそ作りには欠かせない塩に弱く、通常の製法では効率的にオルニチンを生成できない。この問題を解決するため、研究チームは以前から協力関係にある大手みそメーカーに乳酸菌を持ち込む。そこで開発された手法がみその「2段階発酵」。最初に乳酸菌と大豆と麹を混ぜてオルニチンを生成してから、塩と酵母を加えるという方式だ。



 ■ビール売り場にも



 次に越えなければならなかったのが、積み残されたままだった酸味の問題。オルニチンの量は乳酸菌の量にほぼ比例する。みそ汁一杯に「しじみ70個分」のオルニチンを入れるのに必要な量の乳酸菌を使うと、酸味が強すぎてしまう。



 この酸味問題はマーケティングチームとの共同作業に委ねられた。マーケティングチームは鰹(かつお)だしやしじみの風味を強めたり、従来は少なめだった具を多くすることで、酸味をよりまろやかに感じさせる方向性を追求した。一方で研究チームも少量の乳酸菌でも多くのオルニチンを生成できる手法を模索。こうした工夫を積み重ねた結果、合格点を与えられる製品が完成した。



 スーパーに売り込んだ当初は、店側から「面白いけど売れるかどうか」という程度の反応しか返ってこなかったという。ところがふたを開けてみると、発売後約1カ月で生産が追いつかなくなるほどの大ヒット。スーパーでは即席みそ汁の棚だけでなく、お酒好きの消費者が立ち寄るビール売り場にも陳列されるようになり、その勢いは今でも続いている。



 「1杯でしじみ70個分のちから」は永谷園の新たな主力ブランドに育った。みそ汁以外にも、オルニチンを添加したわかめスープやお吸い物、お茶漬けの素もラインアップ。酸味をさらに抑えたみそ汁の出荷も始めた。



 高齢化社会を迎え、消費者の健康志向は今後さらに強まることが予想される。こうしたニーズにマッチした「1杯でしじみ70個分のちから」シリーズを息の長い商品に育てようと、永谷園では商品開発が日夜続けられている。(小雲規生)



【1杯でしじみ70個分のちから】永谷園が平成21年9月に発売したオルニチン入りの即席みそ汁。3袋入りで希望小売価格128円の高い価格設定ながら、発売後1カ月でオルニチン入りのみそが底を尽き、約2カ月販売を中止するほどの売れ行きを示した。これまでにシリーズ合計で約20億円を売り上げている。オルニチンは肝臓の機能を阻害するアンモニアを分解するのに必要なアミノ酸。このためオルニチンの摂取はアルコールの分解を促進する効果がある。毎日飲みたいとケースごと購入する消費者も多く、永谷園には「目覚めが良くなった」「健康診断で肝臓の数値が改善した」などの声が寄せられている。



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