優しい声 | 心の風景

心の風景

心のあり方や生き方をテーマとしたエッセイなどを載せていきます。同好の方と交流できればうれしいです。

 北海道・釧路の、カウンター式のあるラーメン屋さん。席二つごとにアクリル板が立ててあります。私はお年寄りの女性から一つ離れた席に座りました。

 

 しばらく待っていると、その女性が、水は要りませんかと聞いてきました。私の席にはなぜか水が出ていませんでした。親切ですね。私は余り冷たい水を飲まないので、愛想よく断りました。その女性は、70代以上に見えました。そして、外したのか、マスクをしていませんでした。

 

 またしばらくすると、幼稚園児くらいの男の子と若いお父さんがやってきて、お年寄りと私の間に座りました。男の子のために子供用の席が持ってこられました。こちらは2人ともマスクをしていました。

 

 ところで、このお父さんの声や話し方が穏やかで優しくて、いい感じなんですね。思わず聞き耳をたててしまいました。

 

 すると、そのお父さんに向かってお年寄りが世間話をはじめたのです。2人の間にはアクリル板もありません。「ちょ、ちょっと、コロナが!」ガーン

 

 私なら、露骨に無愛想な反応をするでしょう。いや、「コロナですから」とはっきり会話を断ったかもしれません。ところが、お父さんの声の調子は変わらず、愛想よく相手をしていました。親子は旅行者でした。

 

 これはちょっと意外でした。迷惑に思いつつも相手をしているのかも、と思いましたが、次の場面で考えが変わりました。

 

 やっとこの親子にもラーメンが来ました。男の子には、お椀を借りて、お父さんがそこに自分の分を分けていました。ところが間もなく男の子が「おしっこ」😅。

 

 「食べ始めたところで何だい」とお父さんは言いましたが、その声の調子も全く変わらない優しい感じでした。これにも感心しました。私なら、イラッとしかねませんからね。もちろん親子はしばらく席を離れました。

 

 本音の出やすい我が子に対しても口調が変わらないのだから、おばあさんに対しても迷惑に感じていないかもしれないと私なりに思いました。

 

 感染を防ぐ点では、私の態度の方がいいはずです。ですが、声に表われたお父さんの優しい心情のようなものに「ああ、いいな」と感じたのです。

 

 この旅はコロナのせいで人との触れ合いが乏しかったのですが、その中ではとりわけ心の和む場面でした。