母を保護してくれた美容院 | 心の風景

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夕方駅前の美容院から電話がかかってきました。なんとうちの母を保護しているとのこと。どうやら帰り道が分らなくなってしまったようです。

 

びっくり仰天した私は慌てて身支度をととのえ、お礼のつもりで手元にあった大きなゼリーを手にすると、早足で迎えに行きました。

 

細かいことは思い出せないのですが、それは認知症の症状が出始めたころのことだったのかもしれません。とにかく迷子になるのは初めてのことで、衝撃でした。今思うと、認知症についての危機感が余りなかったような気がします。

 

不安な気持ちでその美容院のドアを開けると、まぶしいほどの照明の中で母は椅子に座っていました。私は美容師さんたちに最敬礼しながら大声でお礼を言い、ゼリーを渡すと直ぐに退出しました。

 

その美容院は母の行きつけではなかったようです。しかも2階にあって、どういういきさつで母が保護されたのかは分りません。仕事のじゃまをしたくなかったので、そんなことを尋ねようという気にはなりませんでした。

 

母は迷子になったときは不安だったと思うのですが、そのときはもう澄ました様子で、自分が周囲にどんな騒動を起こしたかは分っていないようでした。帰り道に何を話したかは覚えていません。

 

とにかく美容院の人たちのおかげで、母は危ない目にあわず、無事帰宅することができました。保護してくれなければ、どこまでもフラフラと歩いて行き、一層不安な思いをしたことと思います。その場合は見つけるのも大変になったかもしれません。

 

人の親切が身にしみた出来事でした。