本当の恋愛は小説には書けない

 

第34話【本当の恋愛とは】

 

近藤祐介は僕の心に火をつける
ことを話し始めた。

「雪乃は、今でも僕と結婚するのは
 嫌がっている。だから君に僕を
 倒してほしかったのだと思うよ。
 最後の望みが深川君だったんだよ。
 だけど、今回のコンテストで俺が
 金賞、君は銅賞だったのが結果さ。
 この結果が雪乃の最後の望みの火を
 消したのさ!」

挑発じみた言葉は僕の心に刺さった。
僕が近藤祐介に負けたから結婚する
ことになってしまったんだと分かり
悔しくて、自分で自分を殴りたいと
思った。しかし、このまま
引き下がるのが嫌で今の僕では
現実味がないが挑戦には挑戦で
返すことにした。

「分かりました。じゃあ、僕がもし
 小説家としてデビュー出来て
 祐介さんのデビュー作を超えれたら
 澤田先生との婚約を破棄してください!」

近藤祐介は鼻で笑い、その挑戦を受けると
乗ってくれた。

「でも、今の君では絶対に俺には勝てない。
 僕にとっては何の利益もない挑戦を
 のんであげたのだから、面白い戦いに
 なるようアドバイスを送ろう。
 恋愛経験のない君がいくら書いたって
 いい物語は書けない。俺はたくさんの
 女性と交際してきた。中にはお腹に
 赤ちゃんが出来てしまったこともある。
 その女性には中絶手術を受けてもらった
 けどね。でもその交際の数々が今の
 俺を作り上げてくれたんだ。
 芳樹先生の受け売りだけど残酷で
 純粋に愛に向き合える者こそが
 本当の恋愛を理解したと言えるだろう
 恋愛をテーマに書くならば、本当の
 恋愛を理解しなければ書いても
 読者の心には響かないって修行時代に
 言われたことだ。この言葉は今の俺の
 座右の銘にしている。だから俺を
 超えたければ恋愛をすることだね!」

そう言うと、コーヒーを飲み干し
席を離れ会計を済まし店を出て行った。

しばらくして僕も店を出て自宅に帰る。
日はすっかり落ちて街頭の光が夜道を
照らす。近藤祐介が言った残酷で
純粋に愛に向き合えた者が売れる小説家に
なれるなんて言葉を信じたくなかった。

家の前に着くと近藤梨華が立って
待っていた。僕の帰りを待っていた
らしく、この時、僕は信じたくない
のに受け入れている自分がいた。

僕はそのまま近藤梨華に抱き着いて
あの日の返事をした。

「こんな僕で良ければ
 僕の彼女になってくれないか?」

こうして、高校2年の冬に人生初めての
彼女が出来たのでした。