秋がだんだんと深まり、空気も心もが研ぎ澄まされていく。
私の相棒は変わらずに「本」だけなのだけど。
友達がいない訳ではない。
だけど、自分の心をさらけ出すことは子供の頃からすごく苦手で、そして自分が本当に面白いとか楽しいと思えないことに対しては、うまく笑えない。
人に気を遣わせると、自分も疲れてしまう。
だから、敢えて一人の時間を好むのかもしれない。


11月も半ばに差し掛かった頃。
今日は文化祭が開催される。
有難いことに、クラスの出し物などにもメンバーとして組み込まれなかったおかけで、お祭りごとなどに興味のない私は、誰も使用していない図書室でいつものように本を読む。
楽しそうな笑い声があちらこちらから聞こえてきていた。

私はこのまま大人になってゆくのだろうか。
そんなことをぼんやりと考えた。
人とは色んなことへの経験も、きっと少ないだろう。
色めき立つような事柄にも無頓着で。
華の女子高生が一体何をやっているのか。
それでも、自分を変えたいなどとは不思議と思わなかった。
このままでいい。
静かで平和な時間を、ただただ過ごしていたい。


図書室で持参してきていたお弁当を食べて、自販機で珈琲牛乳を買ってきて飲んでいた。
ふと窓の外に目をやると、何やら人だかりができている。
なんだろう。
もちろんうちの学校の生徒が大半なのだが、私服の人も結構な数が入り乱れている。
人だかりが続く場所は体育館。
これから何かあるのだろうか。
文化祭のプログラムに目も通していない私には、知る由もなかった。

数分後、外にあった人だかりは体育館の中に吸い込まれていった。
ざわざわした気配が消えて、少しほっとする。
どれだけ喧騒が苦手なんだろう。

気を取り直して、再び読みかけていた本に手を伸ばした。
今読んでいる本はお気に入りの作家の小説で、最後のページから読みたくなる程に続きが気になる。
だから余計に静かな場所で集中していたい。

頭を捻っても解くことができなかったカラクリが、ようやく回答を明らかにしそうなページを捲った時、物凄い音が校内中に鳴り響いた。
私は余りにも驚き、持っていた本を落としてしまった。
「なんなの、もう」
独り言のように呟き、落とした本を拾い上げようとした時に、気付いた。

あの声だ。

放課後にいつも聴いていた、あの声。

飛び付くように駆け寄り、窓を開ける。
より鮮明に聴こえてくる声は、体育館からだった。

私は急いで図書室を飛び出し、階段を駆け下りた。
こんな時、一段飛ばしが出来る運動神経が良い人が羨ましいと思いながら、転ばないように自分の出せる精一杯で駆ける。

切れる呼吸を何とか整えながら、重い体育館の扉を開いた。
その瞬間、想像を絶するどよめきと音楽、そしてあのいつの間にか大好きになっていた歌声が私の身体を跳ねつけた。

ドキドキしながらステージに立つ人を観ると、
少し前に廊下でぶつかってしまった、あの人だった。





レイ、
あの日の高揚を私は今も、まるで昨日のことかのように覚えているよ。
あなたがステージで歌う眩しい姿と歌声が、一瞬で私の心を掴んだの。
はじめて何かに感動を覚えた出来事だった。

ひとつだけわがままを言えるのならば
もう一度聴かせてよ。
私だけの為に歌ってくれた、あの歌を。