温かい気持ちになりたくて、またまた中村航さんの本を手に取りました。
3つの短編集から成る本です。
表題作は、小田原を舞台にしています。
この本をちょうど読んでいる最中だったのもあって、この前、箱根に行った時、途中、小田原城に行ってきました。
無性に、小田原の街を歩きたくなったのです。
ぞうのウメ子にも逢いたかったのですが、残念ながら、2年ほど前に亡くなられたようです。
小田原城に行って、少し、吉田くんを感じたような、そんな気がしました。
大きなことが特に何か起こるわけではないけれど、
吉田くんと舞子さんの関係。
吉田くんと又野くんの関係。
それぞれが、すごく温かい気持ちにさせてくれました。
2作目の、男子五編。
中村さんの自伝的な感じなんだろうけど、地元の学校やら地名やらがでてきて、めちゃくちゃ親近感わいて、うれしかった。
3作目、ハミングライフ。
これ、すごく好き。
実際、自分にこんなことが起こったら、わたしだって好きになっちゃいそう。
現実に起こるかは別にしても、すごく幸せな気持ちになれるお話でした。
舞子さんは世界に対して感じがいいわけで、僕に対して感じがいいわけではない。
思春期なのだろうか、と吉田君は考える。
みんな似たようなものなのだろうか?
時期がくれば足りないと思っている何かも、パズルの一片のようにハマってくれるのだろうか・・・・・・?
「ねえ」と、舞子さんは言った。
「俺たち付き合ってるんだよね、って言って」
「え?」
「俺たち付き合ってるんだよね、ってちょっと言ってみて」
「何ですか、それは」
「いいから」
「俺たち付き合ってるんだよね」
「うん」
街にはそれぞれの営みがあって、誰もいなくなるとその跡だけが残る。
誰かの営みを見つけると、少しだけ嬉しい気分になる。
たとえば石ならべで遊んだ跡を路地のすみに発見したり、ビルの屋上に灰皿が置いてあるのを見つけたり、小さな川に一枚板が渡してあって、それがある人専用の橋なんだと気付いたり、どこかの家の玄関脇に小さく塩が盛ってあるのを発見したり。
奪われたものを取り戻しにいこう。
そう思うことがあります。
奪われたものなど何もないのかもしれない。
だけど僕に欠けているもの、僕が欲しいもの、それを奪われたものと仮定してみます。
奪われたものは取り戻さなければならない、そう考えると何だか奮い立つような気がします。
生まれる前、過不足なく全能だった自分。
人生とは、生まれ落ちた瞬間なくしたものを、奪還するための長い旅かもしれません。