私の恩師は中学時代の先生である。

俗に言う多くを語らない無口な人、入学して先輩達の恩師に対する態度を見て、子供ながらに凄い先生なんだとすぐに思った。

当時の私の通っていた中学はまぁとにかく悪い評判が歴代絶えなかった、しかし今のように選ぶ事などできない、その学校に通うしか選択肢はなかった。

先生は練習時、練習試合や公式戦であっても必ず後から来る、恩師が来ると主将の先輩の一言で練習をピタッと止め、脱帽し恩師の方を向きその場で大きな声で挨拶するのが規則であった。

私は1年から投手を命ぜられていた、しかし恩師はブルペンには一切来ない、マネージャーに当時の練習内容を事前に伝える、球数約50球、変化球10球、カーブの後は右打者の内角低めを必ず投げる、と言ったことをマネージャーから伝えられ、
マネージャーはノートに50球を実際どこに投げたかを記録して恩師に見せる、その後は下半身中心のトレーニングその繰り返し。

先輩の投手はたまに呼び出され、指導をしていたが私にはほとんど技術的な事は言ってもらえなかった。正直当時、嫌われてるのかな?と思った時期もあった。


しかし、1年から背番号はもらえた、当時60名ほどいたチームでもらえるのは20人、先輩達は恩師が決めたことなので嫌がらせなどはなかった。

入学直後に試合形式の練習の時、投手を命ぜられた、相手は全て3年生…
デカいは怖いわ…

フリーバッティングの要素も入っていた練習なのでストレートを投げるのが暗黙のルールだったのは知っていたが、私のすぐ近くにしゃがみこみ恩師は
"外の低め、インコース高め、真ん中、そしてカーブ!"

えっ?と私は恩師を見たがシカト🤣

カーブを投げた…

その時ばかりは先輩達の目が一気に私に向けられた、それを見た恩師は

"変化球がこない試合があるかっ!"

そして、しばらく投げているとチームの4番と相対することに
先輩の意地もあるだろう目つきが…

すると恩師が
"初球は顔スレスレに投げろ、その次は内角のカーブ"

マジか…
その先輩は怖い人、恩師も怖い、
もちろん恩師の指示通りに投げる

2球目のカーブで、のけぞった先輩に恩師は

"デカい態度と身体は役に立たんなっ!歳下のボールが怖いのか?"

先輩は下を向き肩を落とした。

後から聞いたのだが、その先輩は他の先生に悪態をつき問題になっていた。

恩師は野球と生徒指導両方を野球部全員に、大人を侮辱したり調子にのるとこういう事になるんだと伝えたかったのだろう。

恩師はチームの1人が問題を起こした場合、その1人を指導することはなく、野球を通じて野球部の全員に何気なく伝える人だった。

連帯責任などではない、あれやこれやは言わず、当の本人のみがわかる、しかし野球部全員の気が引き締まる。

遅れてくる理由を後から聴いたが

挨拶は相手に聞こえて、相手が気づいて挨拶になる、私に挨拶が自然にできないなら他の人に挨拶できる訳がない、と言っていたそうだ。


続く