若者の心身破壊し命も奪うブラック企業-1日で連続11時間は休息とする長時間労働の法的歯止め必要 | すくらむ

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 一昨日のエントリー「20~30代男性非正規8割が恋人・配偶者・交際経験なし-承認と包摂の不在と脱原発デモの若者の成長」 に続く、NPO法人POSSE 主催の「雑誌『POSSE』 創刊4周年記念トークイベント」でのPOSSE代表の今野晴貴さんのお話について私がメモした一部分を紹介します。(※あくまで私の雑駁なメモ書きであること御了承を。m(_ _)m by文責ノックオン。ツイッターアカウントはkokkoippan)


 ブラック企業の論点
  POSSE代表・今野晴貴さん


 NPO法人POSSEは、年間1千件弱の労働相談を受けています。労働相談を受けるだけではなくて、調査・提言などもおこない、社会的な取り組みへと問題提起をしていくために雑誌『POSSE』も発行して世の中に問うていくこともやっています。


 ブラック企業とはどんな企業なのでしょうか? 端的に言うと、労働者を大量に採用して大量に辞めさせる企業。あるいは辞めさせないまでも労働者が辞めざるをえなくなる企業ということになります。


 ブラック企業による「大量採用・大量離職」には、「選別型」「使い捨て型」「無秩序型」という主な3つのパターンがあります。


 たとえば「選別型」のケースというのは、1千人規模のIT企業で働く労働者からPOSSEにあった労働相談事例が分かりやすいのですが、1千人の企業で200人も毎年採用するのです。1千人の企業で毎年200人採用すると5年で企業規模は2倍になってしまいますから、最初から継続して雇用する気がなく、200人採用して1年で半分以上を辞めさせるのです。


 「選別型」のブラック企業は、大量に採用して、企業にとって「使える労働者」を選別して、あとは大量に使い潰した上に、凄惨ないじめでうつ病にさせて自己都合退職に追い込みます。典型的なのがカウンセリングと称して労働者を精神的に追い詰める方法です。「なぜ自分がダメなのか考えろ」「今まで生まれてこのかたどう暮らしてきたか。その中でダメになった要素を考えろ」などという自己否定となる思考へ追い詰めるレポートを定期的に提出させるのです。そうやって自分がダメな人間であることを労働者自らに証明させていく。するとだんだん自分がダメな人間だと思うようになってくる。そして、うつ病になった頃合いに「他の仕事を探した方がいいんじゃない?」という話をもちかけて辞めさせていくわけです。


 追い詰められた労働者は、自己都合退職で辞めていく。若者の離職の内の7割が自己都合退職で、なぜこんなに自己都合退職が多いのかという原因に、一定の割合でこうした「選別型」のブラック企業による追い詰めた上での自己都合退職のケースがあるだろうと思います。私たちPOSSEが労働相談を受けているものの中で実際にこういうケースが多いのです。離職がらみの労働相談では、大半が「自己都合退職になって雇用保険がもらえないがどうしたらいいか?」というケースがほとんどです。そして、多くの場合、自己都合退職という形になったのは自分が悪いのではないかと思わされているのです。でも「雇用保険がないと暮らしていけないのでなんとか雇用保険をもらえないだろうか?」という相談がほとんどです。


 自己都合で辞める若者が増えているのは、若者の根性が足りない、だからもっと教育して世の中の厳しさを教えなきゃダメだというのがキャリア教育です。もっと小学生のうちから職業を意識させなきゃいけないんだとか、厳しいんだから厳しいということを小さいうちから教えなきゃいけないんだという話をさかんにする根拠になっていたわけですが、これは絶対違うと思ったので、ハローワーク前で聞き取り調査をしました。20代から200人ぐらいに「就職が厳しい中で正社員になったのになぜ辞めたんですか?」と質問したところ、3割から4割の人が企業からの違法行為があって辞めたと答えました。若者の根性が足りないのではなくて、ブラック企業などの違法行為の方に問題があるのです。


 「使い捨て型」のブラック企業は、積極的に辞めさせるわけではありませんが、結果的に労働者が辞めざるを得なくなるパターンを持っています。正社員にさせてやったのだからといってものすごい長時間のサービス残業を強制して、からだを壊すまで働かせるのです。1日20時間も働かせて、土日も呼び出して働かせるのでからだが続かないのです。


 過労死を引き起こしたある企業では基本給が月20万円だと言っているのですが、実際はその基本給の月20万円の中に月80時間以上の残業が含まれているのです。だから基本給に達するまでに月80時間残業しなければいけない。それで過労死させられてしまった。過労死してしまうような超長時間労働を低賃金で強制していくこの方法がこの間広がりを見せています。2000年代以降、いろんな労働紛争があった中で偽装店長の問題がありました。この偽装店長の紛争でマクドナルドが訴訟で負けて、店長でも残業代を払わなければいけないという判決が出ました。それ以降、マクドナルドは店長に残業代をつけなければいけなくなったのですが、どんな手を打ったかというと店長の時給を下げたのです。時給を下げて今までと同じだけ長時間働かせて同じ賃金。飲食や小売、IT産業などでは軒並みこの手法を取っています。若者は基本給がいくらなのかも分からないような状況に置かれているのです。月100時間残業してようやく基本給になるということがまかりとおっていて、若者は使い捨てられているのです。


 「無秩序型」というのは、無秩序なパワハラ、セクハラで辞めさせます。このケースは大企業で働く若者からの相談も多くなっています。ちょっと気に入らないといじめるのです。「お前を見ているだけで気持ちが悪い」というたぐいで、人格を徹底的に否定したり、セクハラで辞めさせる。辞めても若者はいくらでもいるからまた採用していじめてうつ病にさせて辞めさせる。若者のからだを壊すまで使い潰すのもよし、人格的に気にくわなければ、いじめて辞めさせればまた次を雇えばいいと考える企業経営者がものすごく増えています。さらに、いじめ、パワハラをシステム化して使っている経営者が大手企業の中で増えています。しかもこの大手企業の経営者は、「就職難の中で新卒を一番多く採用してやっているのだから我が企業は社会貢献している」と誇ってもいる。しかし、その大手企業では若者はいじめやパワハラ、長時間労働によって、うつ病にさせられ働けなくされてしまっているのです。


 ブラック企業は働き続けることができない企業です。「違法な企業」と言ってもこれまでも日本企業は法律を守っていません。道路交通法と同じぐらい企業は労働法、法律を守っていません。ですからブラック企業は「違法な企業」というふうにも言えないのです。


 同じような違法な企業はあったのに、これまでは「イヤではなかった」。それは我慢して働けば年功賃金や終身雇用、企業年金などいろいろついてくるものがあった。ローンが組めて家が買え、子どもを育てられるとか、いろいろついてきたわけです。だから我慢するということが合理的な選択肢になり得たのです。そういう日本型雇用システムが形成されていた。ところがブラック企業というのは、具体的な法律問題ではないのだけれど、日本型雇用システムが崩れて我慢する合理的な選択肢になり得ない。だから、端的に「もうイヤだ」「もうやってられない」ということを表現したのが「ブラック企業」という言葉だと思っています。


 日本型雇用というのは企業の指揮命令権がものすごく強い。長時間労働に関していうと法的に限界はありません。先進国にこんな国はない。アルバイトにすら長時間労働の上限はないのです。企業がやらせようと思ったらいくらでも働かせることができる。配置転換で来週から鹿児島に行ってくださいなどという企業からの命令を労働者が拒否するとクビになるので逆らえない。こんな過酷な命令を強いることは先進国では考えられません。最高裁は企業が人事権を持っているという曖昧な言い方をいていますが、なぜ企業が人事権を持っているか一切説明がない。なぜこういうことが社会的な規範として成立するのでしょうか? それは終身雇用、年功賃金などに加えて、政府がつくる雇用政策、社会保障政策がセットで組み込まれているからです。そして、ブラック企業というのは、そうした日本型雇用でつくられていた企業へのある種の信頼――命令は滅茶苦茶だけれども我慢すれば労働者がなんとか暮らしていけるように設計されていたのである種信頼されていた、その信頼をブラック企業は逆手に取って信頼を食い潰していくという方法を取っているのです。


 若者に対して、「正社員になれば見返りがあるのだからどんな条件でも働かなければいけないんだ」と言うことは、じつは今は全然見返りがないのに働けと言っていることになるわけです。


 さらに言うと、もともと長期雇用や年功賃金と引き換えにあるはずの指揮命令権を使って、いじめ、パワハラで解雇規制を突破しているのです。ここまでくると制度の逸脱、裏切り、悪用が頂点に達する。ブラック企業は日本型雇用の中から出て来たものなのです。


 その日本型雇用の仕組みの外側に出たからそれについて「イヤだ」という言葉として「ブラック企業」と表現されている。もともとはネットスラングで、IT労働者がネットで「あのIT企業はブラックだぜ」と書き込んで揶揄していた。なぜそんなものが世の中に広がって小説や映画になって今は就活生はみんな使っているような広がりを持ったのかというと、日本型雇用システムの逸脱、裏切りというブラック企業のやり口に対する感情的な嫌悪感があるからです。「もうやってられない」「イヤだ」という気持ちが日本社会の若者の中に広がっているからこういう言葉が流行っているのです。ただこれはあくまでネットスラングだということにも一面は留意しなければいけなくて、半分は揶揄で使われて、「ブラック企業残酷物語」などと面白がっているだけというのもあって、労働運動の人たちもブラック企業という言葉を使いたがらなかった。法律の概念でもないし、意味がよく分からないネットスラングみたいなもので運動をつくるのは無理だということをほとんどの労働関係の運動家に私は言われました。でも私はそうじゃないと思います。若者の「イヤだ」という嫌悪感自体を示しているので、これに意義づけを与えることによって非常にポジティブな社会運動の言葉になりうるのではないかと思うのです。逆になぜこんなネットスラングが力を持っているかということを社会運動の側も考えなければいけません。


 本来、日本型雇用の解体の問題を指摘して言葉を生み出して社会運動にするのが労働組合運動のはずですが、そういう意味では労働組合はほとんど存在感を示していないように思います。自分たちのベースアップとか自分たちの持っている日本型雇用がある程度まだ残存している部分の状況を維持することには躍起ですが、そうではなくて日本型雇用が崩れてしまって若者のところで劣悪な雇用が広がっているわけです。そこへの問題意識を持たないで、ただ正社員を増やせとか、正社員化を促進しろとか、今いる正社員を守れなどだけでは、現実にいまブラック企業に苦しめられている若者たちからすると、労働組合は若者の言葉をつないでくれる存在ではないわけです。そうすると具体的な回路がないわけですからネットに書き込むしかない。でもその背景にあるのは、日本型雇用が収縮している、変質していることなので、むしろこういう言葉をすくいとって、本質を読み取って、社会的な言葉に、社会問題としての言葉に、組み直していく。それがNPOとか中間団体などの仕事であろうと思います。


 一部に雇用問題を世代間対立に還元させ、解雇規制緩和を唱える「識者」がいます。とりわけ、若者の雇用問題は、世代間対立を煽られておしまいになることが多いので、『ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪』(文春新書) を書くにあたって留意したのは、この問題は世代間対立ではないということを打ち出したかったのです。若者の異議申し立てとか、若者と中高年層のどちらを取るんだとかいう世代間対立ではないということです。親の世代から見ると、正社員になれたのになぜ頑張らないのかという話になってしまって、親や教師がブラック企業を支えている側面もあり、その責任は重いと思っています。いまの現実を知らないが故に、とにかく正社員になれば大丈夫なんだという信頼の上にのっかっているので、親や教師がどんどんブラック企業に送り込んでしまう。ブラック企業からすれば目の前の若者を使い潰してもまた次が送り込まれてくるという安心感のもとに同じことを繰り返しているのです。


 世代間対立などではないということは、若者が使い潰されてうつ病になって働けなくなってしまうというブラック企業による社会への大きな害悪を知れば共通して理解できるはずなんです。


 一部に「ブラック企業が成長産業を支えているからいいんだ」という議論がありますが、短期的に利益を上げても多くの若者がうつ病で働くことができなくなっていけば社会が成り立たなくなってくることは自明です。健康で働き続けられること、健康で家族を持てるということを保障しない社会というのは続きません。ブラック企業は、少子化や医療費の増大など、日本の国家財政を破綻させるという形で跳ね返り、長期的には日本における実体経済の破壊をもたらします。ですから、あらゆる世代にとっても、企業経営者にとっても、ブラック企業は社会の害悪だということで批判できる対象だと思っています。


 なぜこのブラック企業の問題が政治の論点になってこなかったのかというと、多くの労働組合が若者の実態と乖離しているため、問題を把握できていないことが多いことと、日本にはあまりに中間団体というものが存在しないという問題があります。個人対国家というのは無理があって、民主政治の基本には中間団体の存在が必要なのです。


 ブラック企業をなくすためには、とりわけ長時間労働の上限規制をもうけることが必要です。ヨーロッパ諸国で法制化されているように1日11時間の連続休息時間制度を導入して長時間労働の上限規制をつくるのです。この長時間労働の上限規制をシングルイシューで広げて、ブラック企業をなくすことができれば、日本社会は次のステージに移れると思うのです。


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