政府自ら失業とワーキングプア作り出す市場化テスト-法務省・法務局乙号事務の受託企業2社の業務停止 | すくらむ

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 ※民事法務協会労組支援共闘会議の声明を紹介します。


 法務省・法務局の乙号事務の受託企業である
 ATG Company・アイエーカンパニーの
 業務停止、契約解除に対する共闘会議声明
 ――法務省並びに内閣府監理委員会の責任は重大


 法務省は、7月2日法務局の乙号事務受託民間業者である「ATG Company」並びに「アイエーカンパニー」2社に対して業務停止処分を発表した。この業務停止処分は、昨年(2011 年)の5月から2回にわたる業務停止処分に続く処分である。今回の業務停止処分により、法務省は、「契約については,官民競争入札等監理委員会の審議を経て,解除する」としている。


 今回の処分は、遅きに失した処分であり、国民の財産にかかわる乙号事務の信頼を失わせた法務省の責任は重大であり、厳重に抗議するものである。


 小泉構造改革・規制緩和が進めた「官から民へ」の象徴的な法案である「競争の導入による公共サービスの改革に関する法律」(市場化テスト法)が2006 年に成立し、「法務省法務局の登記簿等の公開に関する事務(乙号事務)」が市場化テストの対象業務に選定され、2007 年から試行的に実施に移されてきた結果、乙号事務の現場で働く労働者は、不落札になれば即職場を失い、雇用と生活が脅かされる事態に直面した。また、民間事業者の参入機会を確保・拡大するとの観点から、その実施要項が緩和され、民間企業が参入し、入札予定価格の6 割以下の入札が続出した結果は、どこの企業が落札しても、従事する労働者に失業と低賃金での労働を強いるものであり、政府自らが「失業とワーキングプア」を作り出すものとなった。


 市場化テスト前まで長年、法務省法務局の乙号事務は民事法務協会が受託して、そこの労働者がその知識と経験を生かして国民の財産にかかわる乙号事務という法務業務を法務局職員に代わって守ってきた。しかし、市場化テスト(競争入札)によって、民事法務協会職員はこの6年間で約1,400名の労働者が失職した。


 乙号事務で働く労働者が中心となって組織する民事法務労働組合は、市場化テストによる問題点を、法務業務を守る立場と利用者の立場から、また労働者の生活と権利の立場から、市場化テストの問題点を指摘し、①法務局登記部門乙号事務を「市場化テスト」の対象業務からはずすこと。②国民のための行政サービスの質の向上をはかるため、「市場化テスト法」の見直しを図ること。③入札実施要項では、価格だけでなく知識や経験を重視する内容とすること要求して闘いを進めてきた。


 市場化テスト(競争入札)によって、多くの民間派遣会社が乙号事務に参入したが、多くの企業で人材確保ができず、素人が対応するというような実態が多く見られる一方、低価格入札の結果、交通費は支払われない、残業代が払われないなど多くの問題が起こっていた。そのなかで、ATG Company 及びアイエーカンパニーでは、年金や健康保険の過少申告がされているなどの不正・違法行為の実態が、組合の調査によって明らかにされ、この「厚生年金や健康保険等の過少申告」に対し、本年(2012年)1月31日東京地方検察庁は2社と幹部2名に対し「270名余りの虚偽の届出があったとして、厚生年金保険法違反、健康保険法違反」で略式起訴し、50万円~30万円という罰金刑が確定し処罰された。


 一方、両社には、昨年(2011年)、委託業務を実施している登記所において、登記事項証明書の交付申請書を提出することなく、自社の登記事項証明書を不正に取得したことが発覚し、両社が業務を行っている4局11庁の職場に対し、5月16日から7月15日までの2カ月間の業務停止が行われた(その後さらに2カ月間業務停止延長され4カ月の業務停止となった)が、法務省はその後一定の改善が見られたとの判断により、9月20日から業務を再開させた。


 組合は、一貫して、国の法律を守るべき法務省において、違法行為を繰り返すATG Company 及びアイエーカンパニーの実態を明らかにし、国会でも日本共産党井上議員の追求に対して仙石前法務大臣が「非常にいわく付の業者が参入してくることもあり得るとすれば、これはゆゆしき事態である。徹底した調査を行う」とし、次の江田大臣も「調査」を約束した。しかし、法務省・民事局も市場化テスト法の担当官庁である内閣府監理委員会も、組合の具体的な違法実態の指摘と契約解除要求に対して、何ら対応してこなかった。まさに、法務省と内閣府監理委員会が、国民の請願を無視し、違法行為を繰り返した企業を擁護し、癒着していたと言わざるを得ず、その責任は重大である。


 今回の業務停止・契約解除理由は、「健康保険法、年金保険法に定める手続きの適切な履践等について改善指示」をしたが、「健康保険等を滞納していることが発覚」し、このことが競争の導入による公共サービスの改革に関する法律で列挙された解除事由に該当するというものであり、ATG Company 及びアイエーカンパニーが不正・違法行為により契約解除となるのは当然のことである。しかし、それを理由として、両社が本年5月分給与2割カットを行い、従業員に対し一方的に「解雇通知」を送付することは許されない。今回の業務停止・契約解除は全て両社の責任によるものであり、また、両社が受託した法務局の乙号事務は入札によって落札し、委託費が支払われておりそれに基づいて保障されなければならない。


 こうした一方的な労働者に対する不利益変更について厳重に抗議するとともに、法務省として責任ある対応を求めるものである。


 乙号事務の市場化テストによる競争入札は、2012年度(2013年4月以降)の競争入札は、全法務局が対象となっている。乙号事務に従事している労働者の雇用は予断を許さない状況にある。


 私たち民事法務協会労組支援共闘会議は、これまで取り組んできた一般競争入札や市場化テストの欠陥を指摘し、これ以上官製ワーキングプアの増大を許さない闘いと、乙号事務に関わる全ての労働者の雇用と生活守る闘いを行うために法務省並びに内閣府監理委員会の責任追求ととともに、不正落札民間企業を許さず、引き続き国民のための公共サービスを取り戻すために奮闘するものである。


 2012年7月9日
 民事法務協会労組支援共闘会議
  代表委員宮垣忠
  (日本国家公務員労働組合連合会中央執行委員長)
  同伊藤潤一
  (東京地方労働組合評議会議長)
  同山田明
  (全労連・全国一般労働組合中央執行委員長)
  同岩井孝
  (特殊法人等労働組合連絡協議会議長)