過労死・過労自殺・メンタルクライシスへ追いつめる構造 - 正社員に「強制された自発性」 | すくらむ

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国家公務員一般労働組合(国公一般)の仲間のブログ★国公一般は正規でも非正規でも、ひとりでも入れるユニオンです。

 NPO法人POSSE 発行の雑誌『POSSE』vol.2 に、甲南大学名誉教授の熊沢誠さんへのインタビュー記事「偽造管理者問題の周辺~正社員を追いつめる構造と労働側の戦略」が掲載されています。(※インタビューのごく一部ですが、興味深かったところをサマリーで紹介します。byノックオン)


 ニート、フリーター、正社員というのは、最初から働く意欲の異なる三層のグループではなく、極端に言えば正社員の明日はフリーター、フリーターの明日はニートかもしれません。


 例えば、働きすぎて燃え尽き、メンタルクライシスに落ち込んで、正社員が退職に追い込まれる事例が多発していて、その後、回復して再就職しようとしてもたいていの場合は非正規の仕事となります。そして、非正規雇用の差別的な待遇が重なることによって気力も失い、求職活動をしなくなったら、それはニートと呼ばれてしまうのです。


 また、ファミレスの店長(「名ばかり店長」)のすさまじい働かされ方を見て、アルバイトの学生は「正社員があんな状態なら絶対になりたくない」、「就職するならフリーターの方がまだましかもしれない」と思ったりしてしまう。正社員の働きすぎが非正規のワーキングプアを生むという関係があり、また逆に、まともに生活できない非正規の貧困、ワーキングプア状態が、正社員の職を得た人を働きすぎに駆り立てるムチになっています。正社員は、非正規のステイタスに落ち込みたくないから、それはもう信じられないほど長時間働くことになるのです。


 このように、働きすぎ・働かせすぎの正社員は非正規のワーキングプアと地続きの相互補強関係にあるのです。


 とくに、90年代後半から、正社員の徹底した採用限定、正社員減らしと対になって、非正規労働者の雇用が増加します。極端に減らされた正社員は、たくさんの非正社員と一緒に、しかも非正社員を統轄しながら、その上に、みずからが責任を持つ財務など固有の業務をこなしています。


 外食産業の「名ばかり店長」の例で言うと、その店舗に配置された正社員は、事業の成否を「あなたの責任」として厳しく問われます。そこから、「あなたは労働者というより、管理者だ」と企業が言うだけではなく、実は労働者の方も管理者的な、小事業家的な責任意識を持つようになりがちなのです。管理監督者の位置づけにふさわしい権限は与えられていないのに、能力主義的な時代の風潮も加わり、「俺は一国一城の主」みたいな過剰な責任意識を持たされてしまう。こうした意識を私は労働者に「強制された自発性」と呼んでいます。


 権限のない労働者(「名ばかり管理職」)に対して、「あなたは管理監督者なのだから」、「普通の労働者ではないんだから」と言って、「強制された自発性」を引き出し、馬車馬のように駆り立てます。その上、この動員方式は、日本の正社員の職務の範囲がそれぞれにきちんと規定されていて、「これ以上はお断り」という態度が許されないという働かせ方のフレキシビリティを基盤としています。


 こうして、「名ばかり店長」のケースだけでなく、あらゆる職場においても、例えば、チームリーダー、主任、班長、係長といった労働法上は明らかに非管理者に属するような労働者までも、「強制された自発性」にからみとられ、ノルマは重く、スタッフ数は少なく、職務範囲は限定されていないという最悪の状態で働かされ、労働時間は年間4,000時間に及ぶケースさえ枚挙にいとまはなく、その結果として、過労死、過労自殺、メンタルクライシスが増加の一途をたどっているのです。