リリイ・シュシュのすべて | 平凡な日々にもちょっと好感を持って

平凡な日々にもちょっと好感を持って

映画、本、旅、散歩....日々の隅っこに見つけたもの。

2001年公開/日本/146分

監督:岩井俊二

出演:市原隼人、忍成修吾、蒼井優、伊藤歩 ほか

 


Colorful Cinema Paradise-リリイ・シュシュのすべて

 

 

西暦1999年、中学1年生。

 

剣道部に入った蓮見雄一(市原隼人)は、秀才でスポーツ万能の星野修介(忍成修吾)と出会う。

 

勉強も運動もできる星野に憧れ、うらやむ蓮見。

 

けれど、星野自身は、自分に対するやっかみや誤解のせいで、必ずしも周囲とうまくいっていないことに悩んでいた・・・。

 

星野の家に泊まって、そんな思いを打ち明け合いながら、親しくなっていくふたり。

 

布団に入ろうとしたとき、一枚のポスターが蓮見の目にとまった。

 

「なに?あれ?」

 

「リリイ・シュシュ。最近ハマってんだ。」

 

夏休み、ひょんなことで大金を手に入れたことから、ふたりは剣道部仲間と贅沢な沖縄旅行に出かける。

 

西表島。素敵な女性ガイド。花火。亀の産卵。シジャーの襲撃。溺れかける星野。アラグスク(新城)の唄・・・。

 

9月1日、新学期の教室。

 

自分に絡んできた不良を容赦なくたたきのめす星野。

以前の星野とは何かが変わっていた。

そしてその変化は、蓮見と星野の関係を何もかも変えてしまう。

星野が支配する小さな世界に飲みこまれていく教室。

 

西暦2000年、14歳。

 

星野に命令され、ただそれに従うことしかできない蓮見。

 

援助交際を強要される津田詩織(蒼井優)。

 

女子同士のいじめの末、不良男子にレイプされる久野陽子(伊藤歩)。

 

援交の手伝いやレイプの手引きをさせられる蓮見は、ひたすら堕ち続けるループの中で傷つきながら、あがくこともままならない。

 

 

そんな蓮見を支えているのは、星野に教えてもらった「リリイ・シュシュ」と、リリイのファンサイトで知り合った「青猫」をはじめとするネット仲間だけだった。

 

 

そしてついに、リリイ・シュシュのライブの日がやってきた・・・。

 

 

 

 

先日発売されたBlu-ray版の「リリイ・シュシュのすべて」。

 

 

 

早起きして、久しぶりに観返してみた。

 

公開当時、いじめ、援助交際、レイプ・・・といったキーワードが前面に出ていたせいか、観るに堪えない気がして、劇場に足を運ぶのをためらい、DVDが出てもしばらく観る気にはならなかった。

 

 

そうして4~5年経った頃、ふとしたきっかけでDVDをレンタル。

 

足利ロケの映画なんだから観ておかなくちゃって気持ちもあったように思います。

 

レンタルした晩の深夜1時過ぎ、さわりの部分だけでも観ておこうと再生したところ、そのまま画面から目が離せなくなり、朝4時近くまで、テレビの前から動けなくなりました。

 

 

重く痛々しいエピソードが露悪的にならず、美しい音楽と映像にあふれ、子どもたちの表情やたたずまいに、胸が締め付けられます。

 

 

支配する側もされる側も、善悪や敵味方を超え、それぞれに痛みを抱え、破滅の淵で必死にこらえている。

 

 

「堕ちる!堕ちる!堕ちる! 永遠のループを、落下し続ける。

 

 だれか! 僕を助けて! だれか! ここから連れ出してくれ!」

 

掲示板に書き込まれた叫びは、どの登場人物に置き換えても成立する。

 

登場人物だけでなく、映画を観ている私たちにもリンクしてくるその痛み。

そういうところに、多くの人が「リアル」を感じ、いまだに新たなファンを惹きつけているんじゃないかと思います。

 

 

この映画は、足利近郊の美しい風景も、見どころのひとつ。

 

 

美しい風景というより、何気ない風景を美しく撮っている、と言った方が正確かもしれません。

 

カメラマン・篠田昇さんの映像は、こぼれるような光と独特の浮遊感が魅力。

 

2004年に、52歳の若さで病死されていますが、存命であれば、もっともっと私たちを魅了する映像をたくさん撮り続けていたことと思います。

 

「西暦2000年。 十四歳。 灰色の時代。

 

 田園の緑だけが、不毛なくらいまぶしい。」

 

鮮やかな緑の田んぼが広がり、うつむきがちに立ちつくす少年。

 

 

このシーンを観るたび、劇場の大きなスクリーンで観なかったことを後悔しています。

 

 

 

***リリイ・シュシュ「グライド」(映画エンドロール)***