アルジャーノンに花束を | 平凡な日々にもちょっと好感を持って

平凡な日々にもちょっと好感を持って

映画、本、旅、散歩....日々の隅っこに見つけたもの。

1969年公開/103分/アメリカ

監督:ラルフ・ネルソン

出演:クリフ・ロバートソン、クレア・ブルーム、リリア・スカラ、レオン・ジャーニーほか

 


Challenged Cinema Paradise-アルジャーノンに花束を

 

 

知的障害のあるチャーリー(クリフ・ロバートソン)は、頭が良くなりたいと願い、熱心に夜間学校に通うが、簡単なスペルのつづり方もままならない。

 

昼間はパン屋で掃除の仕事に精を出すが、いつも同僚にからかわれ、笑い者になっている。でも、チャーリーは、みんながそうして笑うのは友だちの証しだと考え、楽しく働いていた。

 

ある日、キニアン先生(クレア・ブルーム)の紹介で、知能を向上させる実験を行っているストラウス博士とニーマー博士のもとを訪ねた。

 

そこで「アルジャーノン」という名の白ネズミと、迷路対決をさせられるが、何度やっても負けてしまう。

アルジャーノンは、外科手術によって驚異的な知能の進歩を見せた特殊なネズミ。

博士たちは、人間にも効果があるか確かめるために、治験者を探していたのだった。

 

志願して手術を受けたチャーリーに、次第にその効果が現れはじめる。

 

次から次へと新たな知識を身につけ、様々な情報を論理的に統合して、その意味を考察するようになるチャーリー。

その過程で、楽しい仲間だった同僚は自分をバカにしていたのだと知り、頼りになる先生だったキニアンは、ひとりの美しい女性だと意識するようになる。

やがて、自らを手術した博士たちをも凌ぐ知能を身につけたチャーリーは、その孤高の中で、これから自分がどうなるかを知り、慄然とする・・・。

 

 

原作は、ダニエル・キイスの小説。

 

 

1959年に中編として出版された後、1966年に長編小説化されました。

 

この小説を知ったのは、1988年。当時20歳。

 

この年の4月、人気絶頂だったBOOWYが解散し、9月に氷室恭介がソロアルバムを発表。

そのアルバムのタイトルが、「FLOWERS for ALGERNON」。

 

友人たちと、「アルジャーノンって何だ?」と話題になり、音楽雑誌か何かでこの小説のタイトルから取られたものらしいと知りました。

 

 

小説の日本語版初版は1978年ですので、’88年当時、10年も前の(アメリカでの出版から数えたら20年以上前)小説をなぜ今さら?と思いながら、その年の暮れ、試しに読んでみようと思って購入。

 

1988年12月15日発行の第32版。

 

それ以来、自分の好きな小説ベスト5にずっと入ったままです。

 

 

 

この小説をイメージして映画を見ると、やや物足りません。

 

 

 

主演のクリフ・ロバートソンは、この作品で米アカデミー賞の主演男優賞を受賞。

 

その演技には目を見張るところがありますが、小説で描かれていた細かなエピソードが省かれ、骨格だけ残して再構成されているので、全体に中途半端な感じが否めませんでした。

 

登場人物同士が対話するシーンで画面を2分割してみたり、心の動きを表現するのに、サイケデリックな演出や当時のポップアートを彷彿とさせる描写を用いるなど、変わったことにもチャレンジしていますが、どうにもそうした場面が浮いて見えてしまいます。

 

 

悪い映画ではないんですが、この作品を見て関心を持っていただいたら、ぜひ原作小説にも触れてほしいと思います。

 

 

2006年にフランスで製作された映画も観ましたが、やはり似たような印象。

 

日本でつくられたドラマも然り。

それでも映像化してみたいと思わせるモチーフが、たくさんちりばめられている物語なんだと思います。

 

小説は、チャーリーが書き記す、日記風の経過報告で描かれます。

 

つまり主人公目線でしか書かれていないんだけれど、この記録を通じて、彼を取り巻く人々との微妙な関係の変化がよく伝わってきます。

 

主人公の超人化とその後にたどる道が骨格にありながらも、そうやって急激に変化していく人間と、今までと違った立場で関わらざるを得ない周囲の人たちとの関係性を丁寧に描いていて、むしろそこに感動しているように思います。

 

 

映画では悪意ばかりが目立ってしまうパン屋の同僚たちも、小説だとちょっと違って見えて、終盤、一度決別したパン屋の仲間と再び会う場面がありますが、そこのくだりがなぜだか自分にはツボすぎて、読み返すたびに涙がこぼれます。

 

 

その辺をうまく映像で描くことができたら、いい映画ができるんじゃないかなと思います。

 

 

人は良い方にであれ、悪い方にであれ、自分が変わっていくこと、自分と関わりのある人間が変わっていくことにとまどう。

 

 

「どうか・・・・どうか・・・・よみ方やかき方をわすれないよおにしてください・・・・」