「侃」の一文字のもとに描かれた短冊です。「天の川 迷い半ばに 顔見せず」。作者は父の親友、山形新聞で活躍した近藤侃一氏です。『最後の連隊』や『生きている最上川』、『六十里越』など多くの著作のあるジャーナリスト、作家です。    

 天の川について「広辞苑第五版」に次のようにあります。「(中国の伝説に、牽牛星と織女星とがこの河を渡って、7月7日に出逢うという)銀河。銀河系の円板部の恒星が投影されたもの。数億以上の微光の恒星から成り、天球の大円に沿って淡く帯状に見える。銀漢。漢。天漢。河漢(かかん。天の戸河。万葉集(10)『天の川楫の音聞ゆ彦星と織女(たなばたつめ)と今夕逢ふらしも』(以下略)」

「広辞苑第五版」に万葉集の用例がありました。「天の川」の伝承は万葉の時代にすでにあり、「楫の音聞ゆ」と河を渡る舟の楫(かい)の音まで詠い込んでいます。日常生活の中で伝説や語り継がれてきたことを大事にして楽しむこの時代の人びとの豊かさをうらやましく思います。

 近藤さんの「天の川」、そのままとれば天の川が迷ってしまい、ついに顔を見せなかったとなるでしょうか。またこんな風にも読めるでしょうか。天の川は見えているのに彦星も織り姫も何をしているのか、何を迷っているのか、ついに顔を見せなかったということでしょうか。また、雲がかかって見えたり、見えなかったりしていたのに、とうとう天の川も彦星も織り姫も見えなくなってしまったということでしょうか。 

 そんなことを楽しむのも、天の川の伝説があるおかげです。中国の伝説が日本でも語り継がれ、それぞれに膨らみを増して楽しいものに、また感性豊かなものに、そして生きる知恵溢れるものになっていきます。うれしいことです。ますます大切にしたいと思います。