裏書きに次のような和歌が書いてあります。
「雪ぐにのいではの里に浜木綿は 咲き香りたり傘寿を待たで」

  墨絵を習っていた父が残した何枚かの色紙の一枚です。家の近くのカルチャーセンターの一つ、墨絵教室に通い始め、家でも夜昼となく習字の紙に練習していました。
 色紙にもたくさん描きました。墨絵教室には、年に何回か発表会がありました。習字用紙に練習し、それから色紙と同じ大きさの練習用紙に何枚も練習し、それから色紙に清書です。この作品も発表会に出した作品の一枚でしょう。

 広辞苑第五版の「はまゆう」を引くと、次のように出てきます。「ハマオモトの別称。万葉集(4)『み熊野のハマオモト百重なす心は思(も)へど』」
「ハマオモト」を引くと次のようです。
「ヒガンバナ科の常緑多年草。関東以南の海岸砂地に自生。高さ1メートル余。葉は大型でオモトに似る。夏、茎頂に佳香ある6弁の白花を散茎花序につける。果実は円く、種子はは大きい。浜木綿(はまゆう)。(後略)」

 浜木綿は、父の憧れの植物でした。いつの頃かどのようにして手に入れたのか、鉢植えのハマユウを庭の真ん中に置いて喜んでいました。大きな鉢植えで、見事な花を咲かせていました。その後、どうしたのか、次の年には姿を見せませんでした。それにしても、美しい姿でした。この墨絵も、裏書きの和歌も、その時に作ったものだったのかも知れません。浜木綿を咲かせた喜びを、「傘寿を待たで」と表しました。