俵万智さんという歌人(短歌を作る人)がいます。その俵さんに 次のような短歌があります。

 振り向かぬ子を見送れり
 振り向いた時に振る手を用意しながら


読んで 

きみのことを思い出しました

幼稚園まで送って
きみが 園の玄関に消えるまで

近所の小学校まで
きみと歩いて 校門で別れるまで

そして
修学旅行の朝 見送るお母さんの
後ろのドアの向こうで

いつもいつも
きみを見送っていました

振り向くきみを 待っていました
振り向いた時に 振る手を用意しながら


父の日がちかいですね


父の日は 

子どもが父親に感謝を伝える日ですが

でも ぼくにとっての父の日は
ぼくが 父のことを思う日です

父の愛情に

うまく応えられなかった ぼくが

父の気持ちを

うまく汲み取れなかったぼくが


父のことを思う日です


いつもいつも 父がぼくに用意していた

「振り向いた時に振る手」を

思い浮かべながら

父に感謝する日


{6A74489B-DFC7-4776-A5A8-52D84B8EC33E:01}


おとうさん
今年もまた この季節がやってきました


あの日 呼ばれて 本当に久しぶりに

あなたの病室に 家族全員が集まりましたね


めったにないことが 起きたのだから
自分の身に何が起きようとしていたのか
あなたには わかっていました


わかっていて よく来てくれたと 

嬉しそうに 口元だけで微笑んでくれました


意識が なくなる前に

わたしたちは あなたの大好きな桃をむいて 

食べさせてあげることにしました


よく冷えた桃を食べながら
満足そうに 両手の親指と人差し指で
輪をつくって うんうんと頷きました


目は閉じたまま 一言もなかったけれど
それが あなたとわたしたち家族との
言葉のない 最後の会話でした


それから十一日後の 夏休みが終わる日
あなたは静かな場所に 還っていきました


あなたが大切にしたかったもの
心の底から求めて 届かなかったものを


8月の桃が つなげてくれました





ひとりで 街を散歩したんだって?
平日の休みは 贅沢だ

晴れた日の エアキャビンは
気持ち良かっただろう?

五月の陽光と
海のキラキラと 光る空と

束の間の静寂に 祝福される 

きみだけの特等席が
うらやましい

自分以外の 誰かのために
生きてきたから

自分以外の 
愛する人たちのために
がんばって きたから

だから
ひとりに なれなかった

気がつくと

やっと
ひとり を楽しめる年齢になった

だれか
の陰に隠れて見えなかった
じぶんを

今日はエアキャビンの
特等席で 見つけたんだね



そよ風の抱擁

ひかる空の導き

生きて いる

生きて いるよ


生きてて 

生きてて 良いよ


生きてて良い のか?

生きてて良い のか?


生きて

生きて いるだけで良い


生きて

生きて 


生きていれば


おまえが 

だれかの そよかぜに


生きて

生きて


生きていれば


おまえが

だれかの ひかる空に


なる



調和した美しい世界で

わたしは生きたい


調和した美しい世界を

わたしはつくりたい


そう 強く思いながら

走り続けてきた その先に

ふと 見つけた


雨上がりの花びらの

なんと美しいこと


足元に拡がる世界の

なんと美しいこと


見ようとしない瞳には

見たい景色は映らない







{188A1DA6-7EDE-4AE5-9B4E-4C60626DE4CF:01}

期待しても 裏切られるから
もう期待しないと決める

あなたに 期待しないことは 
人として 不誠実だから 

思い直して
また 関わるのだけれど

あなたは 変わらない

それなら 

わたしが変わればいいと


変わらないあなたを

受け容れられればいいと


思い直すことの繰り返し


砂の城


砂の城は 波に洗われて