ウダとまどかが宇宙へ飛び立つ数日前、
今回の宇宙プロジェクトの関係者を集めた
厳粛な式典が開催されていた。
関係者たちは、ウダとまどかを大いに讃えた。
そこへ、ウダの弟と名乗る男が式典に現れた。
「兄者ー!兄者ー!」
ウダ 「ん?ブドーか!?来たか!はっはっは!
さ、上がれよ。」
ウダ 「みんな聞いてくれ!こいつが俺の弟のブドーだ!」
まどか「(あ・・・あの男は・・・)」
まどかは気付いた。
ブドーは以前、マスターを頭突き一撃で気絶させ、
マスターから金を盗んだ男であるということを。
ブドーを見たまどかは怒りに震えた。
しかし、仮面の下でまどかは平静を保つことに努めた。
個人的な感情で厳粛な式典を潰すわけにはいかない。
よって、
式典が終わって、ブドーが一人になるのを待った。
まどか 「待ちなさい!」
ブドー 「ん?」
ブドー 「なんだ。兄者と宇宙へ行くやつじゃねぇか。
何か用か?」
まどか 「忘れたの」
ブドー 「あん?知らねぇなぁ。」
まどか 「覚えてない?(怒)
あなた以前、マスターを頭突き一撃で気絶させ、
金を盗んで逃げた・・・」
ブドー 「あん?・・・あぁ、あの時の女か・・・
おまえだったのか。」
まどか 「マスターをあんな目に・・・
許さないわよ!マスターの痛みを教えてやる!」
ブドー 「ん? やろうっての? はっはっは!」
まどか 「ナメるんじゃないわよ!」
ブドー 「ふっ、調子に乗るなよ!女!」
まどか 「・・・」
ブドー 「ぬおーーーっ!」
まどか 「どりゃー!」
同時だった。
いや、先に仕掛けたのはブドーだった。
しかし、まどかの反射神経はそれに完全に対応した。
そして、
まどか圧勝。
まどかは地球で最も平均的な女性だったが、
宇宙飛行士としての過酷な訓練に耐えてきたため、
ブドーを一撃で倒すほどの強靭な肉体を手に入れていたのだ。
ブドー 「ぐ・・・なんて女だ・・・」
まどか 「さぁ、マスターのお金を返しなさい!」
ブドー 「も、もうそんな金、ねぇーよ!」
まどか 「使ったの?」
ブドー 「使った。」
まどか 「何に?」
ブドー 「車。」
まどか 「車?車買ったの?車種は?」
ブドー 「フィアット」
まどか 「フィアット?イタリア車じゃない。
あぁ、そういえばウダもあなたもイタリア人だったわね。
マスターそんなに持ってなかったでしょ。中古?」
ブドー 「中古。」
まどか 「中古じゃお金にならないわね・・・」
ブドー 「・・・」
まどか 「じゃあ、ウダに返してもらうしかないわね」
ブドー 「ちょ!ちょっと待ってくれ!それだけは勘弁してくれ!」
まどか 「なんで?」
ブドー 「兄者には、このプロジェクトが終わるまで問題を起こすな、
と言われている。
兄者は今回のプロジェクトでビッグマネーを
手に入れることしか考えていない。
今それが中止になったら・・・
兄者はキレたら手がつけられない。
兄者のお荷物になったら俺は消される・・・」
まどか 「お荷物になったら消されるって・・・
” 24”みたいな感じになるのね。」
ブドー 「そうなんだ、なぁ頼む」
まどか 「関係ないわ。マスターのお金はマスターのものよ。」
ブドー 「じゃ、じゃあ、わかった。わかったよ。
情報をやる。とっておきの情報だ」
まどか 「情報?」
ブドー 「おまえに深く関わる問題だ・・・」
ブドーはまどかに今回のプロジェクトの本当の目的を話した。
ブドーは、ウダから今回のプロジェクトの本当の目的を
聞かされていたのだ。
ウダはイハクに「誰にも話してはならない」
と、口止めされていたが、
酔った勢いでブドーに話していたのだ。
ウダは何とも気ままな男である。
そもそもウダがブドーを米国へ連れて来たのは、
米国にいる間、ブドーに身の回りの世話をさせるためだった。
ブドーは、それをわかっていたので、
ウダの世話をするために便利な車を買ったのである。
今回のプロジェクトの本当の目的は、
「宇宙ステーションで新しい命を誕生させる」
だと知ったまどか。
ブドー 「お、おい!どこへ行く?」
ブドー 「待て!この情報を漏らしたことがバレると
俺は間違いなく消される。」
まどか 「大丈夫よ。話したりしないわ」
ブドー 「本当か?本当なんだな?」
まどか 「ええ。」
ブドー 「じゃ、じゃあどうするんだ?」
まどか 「予定通り宇宙へ行くわ。
あなたが情報を漏らしたこともここだけの話にして上げる」
ブドー 「なに?わかってるのか?
宇宙へ行けば、おまえ兄者の子を・・・」
まどか 「わかってるわ」
ブドー 「いいのか?」
まどか 「よくないわよ」
ブドー 「ならなぜ・・・
おまえは体調不良でも訴えて
今回宇宙へ行かなければいいじゃないか。
なっ!そうしろよ。
それなら俺もおまえも安泰だ。
なっ!そうしろよ!」
まどか 「それは甘いわ。
そもそも私は、
イハクのデータに基づいて呼び寄せられた女。
そしてウダもイハクによって呼び寄せられた男・・・
今回のプロジェクトの本当の目的が、
「宇宙ステーションで新しい命を誕生させる」なら、
私とウダでなければならない論理的根拠があるのよ。
だとすれば、イハクは必ず私とウダを宇宙へ飛ばす。
イハクは怖い男よ。そして賢い。
目的のためなら、あらゆる手を使って、
あらゆるデータを駆使して、必ず目的を達成するわ。
今あなたが教えてくれた情報が真実なら、
今回の本当のプロジェクトは、
イハクによって完全にコントロールされているはず。
イハクが綿密にプログラム化した計画に抜け目はない・・・
そして・・・
私が知らない水面下で,
そのプロジェクトが進行していたのなら、
今までイハクの下で訓練を受けてきた私のマインドは、
すでにイハクに侵食されているはずだわ。
私じゃイハクをかわしきれない。
拒否しても無駄なのよ。私は行くいかない。」
ブドー 「なんてことだ・・・どうしようもないじゃないか。」
まどか 「わかってるわ。
ただ、このプロジェクト・・・
もしかしたら私がコントロールできるかもしれない」
ブドー 「何を言っている」
まどか 「あなた、人とコンピュータの違い、わかる?」
ブドー 「何を言っている」
まどか 「それがわかれば、このプロジェクト、
私がコントロールできるかも・・・」
ブドー 「は?
とにかく俺が情報を漏らしたことは言わないでくれ!」
イハクは綿密な男だ。
そしてデータに基づいて完璧に論理的な思考をする。
その評価は世界的に高い。
イハクは世界で「コンピュータに最も近い男」と呼ばれている。
よって今回、人類初となる極秘プロジェクトを任されたのだ。
だが、まどかはそこに勝算を見いだしていた。
それは「人とコンピュータの違い」による。
まどかの考えはこうだ。
コンピュータの最大の強みは「論理的である」ということだ。
コンピュータは、論理的にプログラム化されたものを、
正確に、かつ高速に処理できる。
反面、プログラム化されず論理的でないことには対応できない。
一方、人は知覚的である。論理的でないのだ。
洞察力ににより、プログラム化されていないことを考えられる。
まどかは、そこに着目した。
「コンピュータに最も近い男イハク」。
まどかは、そんなイハクを
「プログラム化された論理的な思考しかできないおっさん」
と仮説を立てたのだ。
プログラム化されたものの下では、
綿密で論理的なイハクの思考は
コンピュータと波長を合わせるのに適しまくっている。
だが、プログラムを作るのは人。
プログラム化された論理思考のイハクは、
むしろ後追いなのである。
人の非論理性の全てをプログラム化されているわけではない。
そこに勝算が見いだせるというわけだ。
事実、イハクは人の非論理性に対応しきれていない。
口止めしたウダが、酔った勢いで口を滑らすことぐらい、
誰でも容易に察しがつくはずだ。
だが、イハクはそれすら対応出来ていない。
論理性のみを源にしているからだ。
よって、「イハクは案外チョロい!」とまどかは考えた。
一度揺らいだ論理にはズレが生じる。
そして、そこにスキマが出来る。
そのスキマに、異なる考えをねじ込めば、
新たな価値が生まれる。
それが、まどかの最終的な勝算だったのだ。
ブドー 「話はよくわからんが、考えがあるんだな。」
まどか 「ええ!」
ブドー 「なんとかなるのか?」
まどか 「なんとかしなきゃダメなのよ!」
そう言って、まどかは自宅へ帰った。
次回 ~検査結果編~ ご期待下さい。