この4月から放送大学で学び直しをしているのですが、その中で魚住先生の哲学史のテキストに載っていた、インディアンの大首長の言葉が胸に響き、このブログに書き留めておきたいと思いました。






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≪大まかな流れ≫

“1848年アメリカはメキシコとの戦争に勝ち、カリフォルニアを獲得したが、同年にこの地に金鉱が発見されてゴールドラッシュとなった。その少し後、北西部のシアトルにいたスクオミッシュ族/ドゥワミッシュ族連合の首長が先祖伝来の地を追い立てられた際に担当官を前に現地語で語った言葉が、その場で英語に翻訳したヘンリー•スミスによって書き留められ伝えられた。さまざまな版があるが、その中でよく知られた版に基づく日本語訳で見事に思想を語っている寮美千子編•訳『父は空 母は大地 インディアンからの伝言』(ロクリン社•2016)から引用する。”

『哲学•思想を今考える』魚住孝至著より抜粋


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『父は空 母は大地 インディアンからの伝言』


ワシントンの大首長が
土地を買いたいといってきた。

どうしたら 空が買えるというのだろう?
そして 大地を?
わたしには わからない。
風の匂いや 水のきらめきを
あなたは いったいどうやって
買おうというのだろう?

すべて この地上にあるものは
わたしたちにとって 神聖なもの。
松の葉の 一本 一本
岸辺の砂の ひと粒 ひと粒

深い森を満たす霧や
草原になびく草の葉
葉かげで羽音をたてる虫の
一匹一匹にいたるまで
すべては
わたしたちの遠い記憶のなかで
神聖に輝くもの。

わたしの体に 血がめぐるように
木々のなかを 樹液が流れている。
わたしは この大地の一部で
大地は わたし自身なのだ

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空気は すばらしいもの。
それは
すべての生き物の命を支え
その命に 魂を吹き込む。
生まれたばかりの わたしに
はじめて息を あたえてくれた風は
死んでゆく わたしの
最期の吐息を 受け入れる風。

だから 白い人よ
どうか この大地と空気を
神聖なままに しておいてほしい。

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死んで 星々の間を 歩くころになると
白い人は
自分が生まれた土地のことを 忘れてしまう。
けれど
わたしたちは 死んだ後でも
この美しい土地のことを 決して忘れはしない。
わたしたちを生んでくれた 母なる大地を。

わたしが立っている この大地は
わたしのおじいさんやおばあさんたちの灰から できている。
大地は わたしたちの命によって 豊かなのだ。

それなのに 白い人は
母なる大地を 父なる空を
まるで 羊か 光るビーズ玉のように
売り買いしようとする。
大地を むさぼりつくし
後には 砂漠しか残さない。

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わたしには
あなたがたの望むものが わからない。

バッファローが 殺しつくされてしまったら
野生の馬が すべて飼いならされてしまったら
いったい どうなってしまうのだろう?
聖なる森の 奥深くまで
人間の匂いが たちこめたとき
いったい なにが起こるのだろう?

獣たちが いなかったら
人間は いったい なんなのだろう?
獣たちが すべて消えてしまったら
深い魂のさみしさから 人間も死んでしまうだろう。

大地は わたしたちに属しているのではない。
わたしたちが 大地に属しているのだ。

たおやかな丘の眺めが 電線で汚(けが)されるとき
藪(やぶ)は どうなるだろう?
もう ない!
鷲(わし)は どこにいるだろう?
もう いない!

足の速い小馬と 狩りに別れを告げるのは
どんなにか つらいことだろう。
それは 命の歓びに満ちた暮らしの終わり。
そして
ただ 生きのびるためだけの戦いが はじまる。

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ひとつだけ 確かなことは
どんな人間も 赤い人も 白い人も
わけることはできない ということ。
わたしたちは結局 おなじひとつの兄弟なのだ。

わたしたちが 大地の一部であるように
あなたがたも また この大地の一部なのだ。
大地が
わたしたちにとって かけがえないように
あなたがたにとっても かけがえのないものなのだ。

だから 白い人よ。
わたしたちが
子どもたちに 伝えてきたように
あなたの子どもたちにも 伝えてほしい。
大地は わたしたちの母。
大地にふりかかることは すべて
わたしたち
大地の息子と娘たちにも ふりかかるのだと。

あらゆるものが つながっている。
わたしたちが この命の織り物を 織ったのではない。
わたしたちは そのなかの 一本の糸にすぎないのだ。

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もし わたしたちが
どうしても
ここを立ち去らなければ ならないのだとしたら
どうか 白い人よ
わたしたちが 大切にしたように
この大地を 大切にしてほしい。
美しい大地の思い出を
受けとったときのままの姿で
心に 刻みつけておいてほしい。
そして あなたの子どもの
そのまた 子どもたちのために
この大地を守りつづけ
わたしたちが愛したように 愛してほしい。
いつまでも。
どうか いつまでも。


『父は空 母は大地 インディアンからの伝言』
寮美千子編•訳
(ロクリン社・2016)