仏教詩人である坂村真民さんが敬愛された尼僧の杉村春苔尼さんの詩です。
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私は十六歳で母を亡くした
母は丁度四十歳だった
もっと幼ければ黙って
あきらめたかも知れぬ
私は
丁度母を失うには
一番時期として悪かった
小さい骨箱に納まった母を
朝に夕におがんだ
私はそのなやみのはてを
仏に求めた
そして父母未生来*
つまり公案*をもらった
私が父母から生まれる前世を
考えよとの事だった
私は明けても暮れても考えた
そして二か月かかって
やっとこの世とあの世の
境無きを知った
天にも登る嬉しさだった
そして亡き母を花と見
雨と見 山と見
海と見る心が開けて
今日に至っている
いきて行く道を見つけた
*父母未生来(ぶもみしょうらい)=父母未生以前の本来の面目。禅宗の公案。両親が未だ生まれていない時の自分とはなにか?自分という存在は、両親にとどまらず、大きな生命の流れの中に端を発している。大きな生命そのものが、即今みずからの中にあることを心身で知覚することが肝要。
*公案(こうあん)=禅宗で、修行者が悟りを開くため、研究課題として与えられる問題。
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「冠頭*の詩」(抜粋)
人生は一本の長いお線香です
刻々の現在に命の火を燃やして
消えていく未来は?
わからない
いつ燃え尽きるのか
それはいつでもいい
私はそのつきるまで
即今唯今を燃やし続ける
高く高く登る煙をあげたい
清く永く広く香る
匂いをのこしたい
*冠頭(かんとう)=旗を取り付ける竿やポールの先端につけるもの。