夜、新茶屋を訪れたのは孫八(長門勇)だった。木曽福島では荒神組と清滝組の争いがあり、清滝の助っ人に来たので伊三蔵(市川雷蔵)の力を借りたいと言う。しかし、伊三蔵は荒神の岩松(遠藤辰雄)の頼みで戻ってきたと言うではないか。清滝に加勢するのが当たり前と言う孫八だが、どっちが勝とうと関係ないという伊三蔵。「今度会うときは修羅場だぞ。立派に相手になってやる」と言って憤慨した孫八は飛び出していく。
上田家の由乃(小川真由美)と結婚するはずだった平沢清市郎(小池朝雄)は武士の意地にかけて伊三蔵を斬ると由乃に言う。
荒神組から清滝組に喧嘩状が届く。清滝組にいたのはかつて駆け出しやくざだった半次(長谷川明男)だった。カネを受け取った半次を彼と再会した孫八が諫める。一方、荒神側についた伊三蔵は差し出されたカネに不満で立ち去ろうとする。彼の前に鬼頭一角(五味龍太郎)が立ちはだかるが、その場でばっさりと斬り捨ててしまう。そして値を上げようとする岩松には「値をつけるなら、出入りの後にしてもらいましょう」。
由乃が暮らす家まで来た伊三蔵。由乃は留守だった。伊三蔵にとっては、実子とふたりきり、由之助(斎藤信也)との対面であった。しばらくの会話の後、「あばよ」と言って別れるのだった。
そして出入りの日。孫八は伊三蔵との勝負に挑むが、そこへ半次が割り入ってくる。容赦なく半次を伊三蔵は斬り捨てる。そして、出入りは終わったとの声が聞こえる。伊三蔵がいつか修羅場で斬られる身なら、自分が斬りたいと勝負を続けようとする孫八に伊三蔵は礼を言い、「死に急ぐことはねえや」。また、半次は斬られておらず、峰打ちだった。伊三蔵は岩松が待つ場所に急ぐが、それは罠だった。待っていたのは平沢と配下の者たち。
平沢は由乃と由之助を人質にしており、観念した伊三蔵は刀を放り出す。平沢の槍で傷ついた伊三蔵を助けにやって来たのは孫八だった。渡世の出入りではないから助太刀するなと伊三蔵は言うが、「おめえを殺さしてたまるもんか」と孫八。
伊三蔵は由之助に「由坊、よく見てろ。これが人間のクズがするこった。…人のするこっちゃねえんだぞ」と言い、平沢を斬る。「坊主、見たか?見たな?」。うなずく由之助。うなずき返す伊三蔵。「由坊、おじちゃんのようなもんになるんじゃねえぞ」。
由乃、由之助、孫八を後に残して去る伊三蔵。「今夜もまた、新しい卒塔婆の夢を見るのか」。
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雷蔵の「死に急ぐことはねえや」がなんとも悲しいやないか。円熟と言われるような彼の演技を見た人は誰もおらんのや。
「眠狂四郎 魔性剣」とこの作品の雷蔵は以前よりほべたがふくらんで、ちょっと太ったな。
料理屋の客に岩田正によくよく似た役者がいたんやけど、出演者に名前なし。