第七作からがほとんど見つからんので停止した市川雷蔵主演の「眠狂四郎」シリーズは奇想天外、ときどき荒唐無稽なんやけど、「ひとり狼」は「なんでやねん?」がない作品。雷蔵が主演した時代劇のうち、間違いなく代表作のひとつやないかな。
上松の孫八(長門勇)が「人斬りの伊三」とも呼ばれる追分の伊三蔵(市川雷蔵)のことを囲炉裏で独酌しながら回想する。伊三蔵は親分なしの子分なし、いつも誰かに狙われている旅やくざだった。
孫八が伊三蔵に最初に出会ったのは冬の信州塩尻峠だった。三人を相手にする伊三蔵を助けようとするが、「いらねえこった」とはっきり断られる。三人のうちのひとり、多賀忠三郎(伊達三郎)は左腕を断ち切られる。
駆け出しやくざの半次(長谷川明男)を連れて旅することになった孫八は上州坂本で、ある一家に世話になるが、そこで伊三蔵と再会する。渡世のしきたりを教え込みながら、孫八は半次に剣だけでなく博打にも長ける伊三蔵の振る舞いを観察させる。
三河での法要の後、賭場で伊三蔵を見かけた孫八は、その夜、料理屋でまたもや彼と出くわす。その店にはかつて伊三蔵に捨てられた酌女のお浜(岩崎加根子)がいた。伊三蔵は孫八に、木曽福島にある新茶屋に届けてくれと五十両を渡す。忠三郎の朋友だと言う斎藤逸馬(新田昌玄)に勝負を挑まれた伊三蔵は彼を斬って捨てて甲州へ行くと言い、孫八と店ではさんざん伊三蔵を罵倒していたお浜が離れて見守る中を走り去る。
途中、ててなし子といじめられてけがをした侍の子だという男子(斎藤信也)に手当てをしてやる伊三蔵。そこへその子の母(小川真由美)が現れる。伊三蔵は「由乃さま」とつぶやく。
新茶屋までやって来た伊三蔵。八年ぶりであった。迷惑そうな店の吾六(浜村純)は由乃がどうしても伊三蔵が送ってくるカネを受け取らないと言う。
そして伊三蔵と由乃の過去が語られる。由乃は上田家の跡取りだったが、奉公人との子を身籠っていた。その奉公人こそ伊三蔵であった。上田家は行き倒れの博打打ちが父親だった伊三蔵を育て奉公人にしたのだった。当主上田吉馬(内田朝雄)は代官所の平沢清市郎(小池朝雄)に伊三蔵を斬らせようとする。深いけがを負った伊三蔵が由乃と駆け落ちしようと戻ってくると、彼女は伊三蔵にカネを渡してひとりで逃げてくれと言う。伊三蔵はカネを叩きつけて姿を消す……。