三船敏郎が主演したメキシコ映画で、邦題「価値ある男」は英語での「The Important Man」からだろう。「Animas Trujano(アニマス・トルハーノ)」は三船の役名である。

オアハーカ村で年に1度行われる大祭には村人全員が招待され、司祭が指名する男は尊敬される人物でなければならず、「マヨルドーモ」として自らの財力で祭りを仕切ることになっている。

まだ幼い末娘が病の床にあるが、酒浸りの父アニマスには医者を呼ぶカネもなく、一家は祈祷師頼り。祈りは神には届かなかった。アニマスは酒浸りなだけでなく、血の気は多いがかなりの怠け者で、博打好きでもある。息子は父に反抗的だが、妻フアナは父への反抗を許さず、苦労しながらも夫を支えようとしている。

フアナに「マヨルドーモになれる」と言われたアニマスは、メスカル酒の蒸留所での仕事を不満ながらも受け入れる。一家で働くのである。

彼は樽から漏れる酒をこっそり楽しみ、寝込んでしまったところを蒸留所の親分に見つかり、クビを言い渡される。すぐ後、長女ドロテアに親分の息子ベラルミーノが手を出しているのを見て怒り狂い、アニマスはピッチフォークで息子ともうひとりを刺し、留置される。保釈に必要なカネは一家にない。しかし夫への差し入れに妻は酒を忘れない。

留置所で神に祈るアニマスだが、出所していく男に祈りより効き目があると言われ、毛布と交換したのは釘が引っつく石だった。その石を手にした彼はキリストの絵が入った額を放り捨て、代わりにその石に祈るのだった。

一家は懸命に働き、カネを蓄え始める。もうすぐ保釈に必要な金額になりそうである。そして、野菜を売るドロテアの傍らには赤ん坊が……。

出所したアニマスは、生活のためにフアナが一家の土地を売ってしまったことを知り、彼女を殴打する。一家にあったカネを持って出た彼は娼婦のカテリーナに会いに行き、彼女との時間を無駄に楽しむ。インコ占いの男にきょうは運があると言われ、彼女とともに闘鶏場へ。大勝ちしていたアニマスだったが、もう行こうとカテリーナに言われても聞かず、最後の勝負に賭けてすべてを失ってしまう。

悔し紛れにインコを奪ったアニマスは、善人の自分は誰にも好かれていないと嘆き、ずっと握っていたインコを放すが、インコは絶命していた。「神さまはいつも自分が望まないことをやってくれる。もう神さまには疲れた」と言って号泣する。そして、彼の心は悪魔へと向かう。魂との交換でマヨルドーモになりたいのだと。

現れた魔術師らしい男が「金のおんどりが3回鳴く。それを聞いたらすぐに立ち去れ。そうすれば大金が与えられる。そのためには6羽のめんどりが必要だ」と言う。言われた通り、アニマスは深夜0時、めんどりを両手にぶら下げて墓場に立つ。おんどりが3回鳴いたの聞いて急いで帰宅する。得られるカネで土地を買い戻し、子どもたちを学校へやって、と言うが、騙されただけだった。その魔術師が市場でニワトリを売っていたのを見たをフアナが言う。

そこへやって来たのは蒸留所の親分で、大金と引き換えにドロテアのそばにいた赤ん坊を連れて行くと言うのだった。その子を渡せとアニマスに命じられたフアナは涙して孫を渡す。

受け取ったカネでアニマスはマヨルドーモとなる。祭りが始まりアニマスとフアナは村を練り歩くが、村人たちの視線は冷たく、「孫を売ったんだ。来年は息子を売るつもりだ」との声が群衆から聞こえる。誰にも愛されていないとアニマスは嘆く。

そんな彼の様子を見て近寄ってきたのはカタリーナ。アニマスとともに去ろうとするのを見て、フアナは彼女を刺し殺す。アニマスは……。

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三船のセリフは吹き替えらしい。映像的には不自然さはないが、深くて重い彼の声ではない。