焼け跡やバラック小屋が残る東京。ふたつの指輪をめぐって大騒動が展開される。三船敏郎と原節子が共演した数少ない作品。

ユキ(原節子)は銀座にある宝石店「宝山堂」の前で似顔絵を描いて生計を立て、通りの向かい側では3人の青年になりかけの少年「三銃士」が靴磨きと修理に精を出す。そして胸を患う街娼のハルミ(杉葉子)。みんな同じアパート「中澤荘」で暮らす。「宝山堂」の店主は十朱久雄、なぜかくしゃみをしないと気が済まないその妻は沢村貞子が演じている。

偽物ダイヤの指輪を「偽物づくりの名人」黒川(三船敏郎)が宝山堂に持ち込む。陳列用である。近くに事務所を構える赤澤(森繁久彌)は、本妻(清川虹子)が「フーチャカピーの粕漬みたいな女」と呼ぶ妾の小夏(藤間紫)に50万円の本物をせがまれるが、こっそり店に掛け合って買ったのは偽物ダイヤだった。この贈り物を本妻に知られることになった赤澤は結局、本物のダイヤを本妻に買わされるはめになる。本妻に言われるままに、赤澤は偽物を会社の給仕係タマコにやってしまうが、本妻が本物だと思っていたダイヤの指輪は実は偽物だった。

ユキ、三銃士、そしてタマコはハルミの治療費を捻出しようとし、タマコはもらった偽物のはずの指輪を売るために宝山堂へ行こうとするが、その指輪が路面電車の窓から外へ落ちてしまう。運悪く、そこは勝鬨橋だった。

もうひとつの騒動は、長らく音信が途絶えていた母親から届いた手紙に病床のハルミがユキに代筆を頼んで書いた返信だった。その返信では、ハルミは黒川と結婚していることになっていたのだ。病状が芳しくないハルミを母親が訪ねてくる前に黒川を見つけ出そうと、ユキと三銃士は奔走する。見つけられた黒川はハルミの母親を前にして芝居を打つ……。隅田川の川開きの夜、手鏡に映った花火を見てハルミは亡くなる。

一方、指輪に執着する赤澤夫妻は……。

小夏が「50万円儲かったら、20万円でお店きれいにして、20万円で電話買って、あとの10万円で着物買って、帯買って、ハンドバッグ買って、草履買って、歌舞伎行って、温泉行って、そして残りはそっくり赤十字へ寄付するつもりだったのよ」と言う。固定電話に20万円もかかったのか……。そして娯楽に歌舞伎とはすばらしい。

藤間紫の二人目の夫は三代目市川猿之助である。彼の父は三代目市川段四郎。その市川段四郎とは、きのう「戦国無頼」で会ったばかり。偶然。「三銃士」のひとりは「マタンゴ」の小泉博だが、自分が知る小泉博は「クイズグランプリ」の司会者として。清川虹子は昭和58年公開の「楢山節考」での彼女を想像してはいけない。かなり別人。

勝鬨橋が「跳開」する様子が撮影されている。電車の車体にある「上」広告、見覚えがあるけど、かまぼこかかつお節か、何だったか思い出せない。