荒くれ者の人力車引き、富島松五郎が改心して無骨でありながら純真とも言える一本気な心を持つようになる。吉岡家の敏雄(ぼんぼん)の指南役となるとともに、未亡人となったその母親、良子に思慕を抱く。主演は58年版が三船敏郎と高峰秀子、65年版が勝新太郎と有馬稲子。両作とも同じ人の脚本だから、台詞もよく似ている。らっきょうが銀杏に、「吉岡さん」が「敏夫さん」になってるけど。縁談をもってきた良子の兄夫婦との会話など、65年版には見られない場面が58年版にはあったりする。

「七人の侍」や「張込み」で知られる宮口精二が、58年版では松五郎の脳天に一撃をくらわせる撃剣の師範、また65年版では芝居小屋で暴れた松五郎と一座の仲裁を買ってでる結城組の親分として出演している。この親分、58年版の笠智衆は「ゆうきとよぞう」と、しかし宮口精二は「ゆうきじゅうぞう」と名乗っている。若い衆が着る半纏の背中には、それぞれ「豊」と「重」と染められている。

白髪が増えた松五郎、勝新太郎が若山富三郎に見間違えそうになる。そんな松五郎が居酒屋で見つけて「この酒の広告ば、もろうちんでもよかか」というのは清酒國之壽(www.kuninokotobuki.co.jp)の広告。58年版では清酒富久娘の広告になっている。

65年版で少年時代のぼんぼんを演じている子役に見覚えがあった。調べると「マグマ大使」の「ガム」だった。見覚えがあるはずだわ。なつかしい!そして、頭師佳孝はやっぱり名優だと思う。

こんなにそっくりな映画もめずらしいのではないか。先日、「日本沈没」を見たばかりなので余計にそう思われる。工夫された映像の美しさは58年版が勝る。小倉弁の出来不出来はわからん。