雨天の夜、港から転落した乗用車に乗っていたのは男女。女は助けられたものの、男は車内に閉じ込められたまま溺死した。男は造り酒屋の資産家(中谷昇)で、女は彼の後妻(桃井かおり)でまだ若く、彼女には前科四犯の経歴がある。夫には合計3億1000万円の保険金がかけられていた。誰しも常識もなければ礼儀もわきまえぬ妻による金目当ての殺人だと思い、新聞もそう書き立てる。ところがそんな簡単な話ではない。裁判の決め手は前妻との子による証言だった。その子はまだ中学生。

裁判所が中学生を刑事裁判の証人として出廷させることができるのかどうか知らない。無罪放免された妻は男をたらしこんで生きていくと言うが、全国的に知られてしまった悪女である。行く末は人を殺すか、誰かに殺されるかではないかな。

中谷昇の役柄は他の出演作でよく見られる地位あるものではなく、ここでは悪女に手玉に取られる気弱な男である。桃井かおりは見る者から嫌悪されるようなふてぶてしさをもっと出してもよかったと思う。それほど引き込まれることなく、冷静に見てしまった映画。松本清張原作なら「張込み」や「ゼロの焦点」の方が緊張度が高いと思う。