大岡昇平による原作を読んだのかと問われれば、「もしかすると内容も背景も理解できない中学生の頃に読んだような気がする」としか答えられない。

映画の内容を形容すれば悲惨という言葉が最初に思い浮かぶ。

主人公の田村を演じているのは船越英二。映画俳優としての記憶はない。「ホームドラマ」や「ポリデント」のコマーシャルへの出演が印象にある人だが、この映画での船越英二はまったくの別人だ。画面に登場したとき、ぎょろりとした目つきでひげ面の人物が船越英二だとは思えなかったほど。誰に似ているかと言えば、記憶にある船越英二ではなく、長年にわたってPLOのリーダーだったヤセル・アラファト。

そして、野火での彼の演技は淡々としていて、それが不気味さをも感じさせる。

もう半年ほど、映画、とりわけ昔の日本映画ばかり見ているのだ。無言酒と映画。まともな日本語がなつかしい、恋しいのかもしれない。