広岡達朗GMの補佐だった高木益一なる人物は、選手経験のない記者出身の人物だったが試合前の練習で選手に技術的知識を披露して、評判芳しくなかったようだ。バレンタイン監督も、

"'It was embarrassing... to have somebody who had never played the game of professional baseball out on the field teaching.'1"

 インターネット上にはこんな記述も見つかる。「選手間で疑問を持たれたのは、GM補佐の高木益一。『広岡の子飼い』だった高木は監督然とした態度で選手に接し、技術的な物言いをしては練習に口を出していた。主力選手の多くは高木に反発し、必然的に広岡との関係も悪化した」2

 チーム事情はコーチと監督がメディアに対して批判し合うという状況にまで陥る。バレンタインは広岡と会談し、コーチによる采配への介入に関して抗議したが、会談自体は、

"'Excellent meeting,' he beamed to reporters. 'We are going to do things my way from now on.'3"

と楽観していたが、日本式はこんなことではおめでたい大団円で終わらない。広岡は江藤省三と尾花高夫とも別に会談し、その後、二軍監督だった江尻亮を一軍のヘッドコーチに据える。広岡は江尻をいずれはバレンタインの後任とするつもりだったのだ4。皮肉なことに、低迷していた千葉ロッテはシーズンのこの辺りから勝率を五割まで上げ、二位を窺うほどになる。バレンタイン支持者は彼の積極野球がようやく結果を見せ始めたと言い、また彼にずっと批判的だった者たちは監督の方針に反して行ってきた練習の成果、そして江尻の功績だと言う。

 そして、バレンタインと江尻との関係も悪化する。監督が先発メンバーについてコーチに相談しなかったこと。監督室での会議でバレンタインが机の上に足を投げ出したまま話を聞いたこと。試合前のミーティングで、ピート・インカビリアがウォークマンを耳にして、そばにいたバレンタインと笑いながら話していたこと5。通訳は何をしていたのだ?

 

1 Whiting. P.185

2愛甲猛が明かす根本陸夫と星野仙一の人心掌握術『選手を尊敬してた』」

(https://www.excite.co.jp/news/article/WebSportiva_088002/?p=3)

3 Whiting. P.187

4 Ibid.

5 Ibid., p.191