■ああ池袋我が家は時空のスクランブル交差点■【第二章[5]】 | 愛すべき【ろくでなし】小次郎の元気が出るブログ!

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[5]

スルスルスル、トーン

「とーん♪」

スルスルスル、トーン

「とーん♪」

わらしが押入れの襖を何度も開け閉めしながら燥いでいる
建付けの悪かったドアや襖を大工さんに直して貰ったからだ、どうせならと、押し入内も綺麗にしてあげようかと
クロスを選ぼうとしたのだが、わらしは首を縦には振らなかった、どうも今の古い方がお好みらしい。

宅配のドライバーや回覧板を持った町内の人達が来た時も、小次郎の後ろを着いて回るわらしには誰も気が付かない
やはり小次郎だけにしか見えて居ない様子だった。

わらしとの奇妙な共同生活が始まると、どこか充実感が出て来た、襖の修理ひとつにしても、以前までの小次郎ならば、先に修繕費用が気になる処だが、わらしも喜んでくれそうだ、そう思うと今すぐにでも手配をしたくなる、今みたいに喜んでいる、わらしの姿を見てしまうと、よし頑張って稼ぐぞ!そんな気持ちが沸々と湧きあがってくるのである。

自分の為だけではなく、自分以外の誰かの為に、その喜びが少し分かった様な気がしたのだった。

夕方に成って親友の隆行が訪ねて来た、自分の手配した大工の修繕ヶ所の出来具合を見に来てくれたのであるが、まぁ其処は
方便、結局二人で酒を飲むのが本当の目的で有った。

キッチンはそれ程広くは無いので、家具の配置には頭を悩ませるばかりと成ってしまい、結局寝室の並び洋室8帖はパソコンデスクと
ソファーやテレビ、テーブル等を設置しリビングの様な使い方をする事で落ち着いた。

その洋室で小次郎と隆行は酒を飲みながら他愛もない話で盛り上がって居た。

わらしは同じ部屋でソファーにちょこんと座りテレビを見ている、ソファーの前には低いテーブルを置いてある

そのテーブルを挟む形で床にクッションを布き二人が酒を飲んでいる。

ソファーに座り正面のテレビを観ているわらしからすると、小次郎と隆行が左右に座って居る形だ。

わらしは時には子供らしくアニメ等を観てケタケタと笑って居るのだが、主に観ているのはニュースや経済関連
ばかりだから不思議に成る。

身長は1m有るか無いかなので平均的な3歳半から5歳児程度だと推測は付くのだがその点は未だよく分かっては
いない、仕草などは幼児にしか見えないのであるが、本当の所はどうなんだろうか?こればかりは本人に聞いて見なければ分からない。

小次郎がトイレに行こうとすると、わらしはピョコンとソファーから飛び降りて来て、ヒョタタタタと小走りに着いて来る

「トイレに行くだけだから座って待ってろよ」

その様子を見ていた隆行が怪訝そうな顔をし首を傾げた

どうも最近に成り小次郎の様子が明らかに変なのである、実際に今もそうだがいきなりそこに誰かが居るかの様に
話だしたり、笑い出すのである、幼少の頃から共に育ち、互いに酸いも甘いも知り合う仲だ、しかしこんな小次郎を
見るのは初めてだった、その時期も明確である、この家に引っ越してからだ、ここ最近妙に活き活きとし出したのは
隆行も安心してたし、何かできる事でも有ればいつでも力に成りたいとは思っていた、しかしこの変な様子は頂けない。

「おいっ、小次郎おまえ独りで何言ってんだ?」

ハッと気付いた様子で小次郎はバツが悪そうにあたふたと

「そうだ、隆行まだ飲むだろ酒が切れそうだから少しコンビニで買って来るよ」

そう言った小次郎はトイレを済ませると、部屋には戻らずにそのまま玄関からコンビニへ向かってしまった

一人部屋へ残った隆行は記憶を回想してみた、この家の引越しの手伝いを終えたあの日俺は池袋のキャバクラへ
飲みに行ったんだよな、そうそうレイナちゃんの為にケンタキー持って、でっ帰りにここへ来た・・・

そうだ、あいつ日本人形がどうのこうの言ってたよな、確か和室の・・・

そこまで考えると隆行は洋室を出て和室へと向かった
本来の目的であった大工の修繕後の確認作業を忘れていた事にこの時気が付いたのである

「ついでだ、丁度いいな」

隆行はそう独り言を呟くと各ドア、襖の点検をして回った。

4畳半和室の襖の前に立ち隆行が再び声を出し呟いた

「ここだよな、小次郎の言ってた日本人形」

あの日わざわざタクシーの運転手まで引っ張り込んで日本人形が有るだろと、何も無い押し入れを指差しながら
騒いでたよな、スマホで写真まで撮ってたし、そうだよ、あそこからアイツはおかしく成り出したんだ。

隆行は襖を開け押し入れの中を覗き込んで見た、まだ何も使用して無い様子で上段、下段更に天袋までも確認したが何も無かった。

襖を左右にスルスルと何度か動かし滑りを確認し隆行は襖を閉じた、襖が柱と接しトーンと心地よい音を立てて隙間なく
綺麗に閉じた、あの大工さん相変わらず良い腕前だな、そう思った時である。

「トーン♪」

えっ!と思わず隆行が後ろを振り返ってみたがそこには何も無くただ古い和室の畳が広がって居るだけであった

「気のせいかな、まだそんなに酔う程飲んで無いし」

これで一通り全ヶ所回って見たので隆行は和室を出て洋室へと向かった

ヒョタ、ヒョタ

おかしい、自分のすぐ後ろから明らかに小さな足音が聞こえて来るのである、洋室まではそれ程距離がある訳では無いが
隆行は小走り気味でササっと洋室へ入ってみた

ヒョタタタタ

来たっ!明らかに何かがこの部屋に向かって小走りでやって来る、隆行は思い切って後ろを振り返ってみた。
 

そこに、小さな童女が立っていた、着物を着ているから七五三かな?という事は3才いやもう少し大きいのかな?
そう考えていたが、童女は隆行のズボンを指先でツンツンと引っ張りながらテーブルを指差して呟いた

「あれ、食べていいか?」

童女の白い小さな指先が示したその先、テーブルの端には、包装紙を1枚被せ容器を輪ゴムで止めたタコ焼きのパックが有った、そうだ酒の肴にも成るからと手土産代わりに駅前で買って来たタコ焼き、それをすっかり忘れていた

「タコ焼きが食べたいのかな?」

「た・こ・や・き?」

「そうタコ焼きだ、ここのタコ焼きは旨いんだぞレイナちゃんも好きなんだ」
それはこの際関係無いと思うが、冷めてしまっているので、温めてあげるからと隆行はキッチンで皿を探しレンジで温めた


「チーン♪」と童女が嬉しそうに言った

そう、よく知ってるねチーンだね、やがて本物のレンジが軽快に鳴ったチーン、童女と隆行がそれに続いて口にする

「チーンん♪」

隆行が皿を持って洋室へ向かうその後を、ヒョタヒョタと足音を立て童女がにこやかに着いて行く、
座り込んだ隆行は、小皿にタコ焼きを1つ乗せ爪楊枝をプツリと刺し、さっどうぞどソファーに座った童女に手渡した

「中が熱いからそぉーと食べるんだぞ」

コクリと頷き、いただきますとちょこんと頭を下げてから童女はパクりと1口食べた。
美味しいかな?と隆行が聞くと童女は何とも言えない笑顔で美味しいと答えた。

その笑顔を見た隆行も思わず笑顔となりながら、今日タコ焼きを買って来てよかったと心からそう思った。

小次郎の親戚の子かとも考えたが、まずそれは無いはずだと思った、親の世代から親戚よりも身近に育って来た仲だ
そこは良く分かっている隆行である。

名前を聞いてみると人差し指を自分の鼻先に持ってきて

「わ・ら・し」と教えてくれた

「そうかわらしちゃんか俺は隆行、た・か・ゆ・き、小次郎の親友、兄弟みたいなもんだ」

すると今度はわらしが隆行の事を指差しながら「け・ん・た」と言った、隆行が何度もタカユキと繰り返したが
わらしは、ケンタと繰り返すばかりだった、まぁいいやとばかり今度は隆行はわらしの歳を聞いてみた、わらしは暫らく
数える様な仕草をしたが、やがて拡げた掌の前へ3本の指を立てて見せた。
八?八歳かな、見た目より大きいんだねと言うと、わらしは首を振りながら再び掌と三本の指を立てた後に親指と人差し指で
丸を作りちょんちょんと隆行に見せた。

「ゼロ?えっ80歳」

隆行がそう言うと、わらしは違うとばかりに首を振り、またちょんちょんと2回指先の丸を振ってみせた。

ゼロがふたつ、えっじゃぁ、
はっ、八百?隆行が口に出してそう言うと、わらしはウンウンと首を頷かせた。

「800歳ですか!」


小次郎はコンビニの袋を片手に敷地の門を開いた、ついつい立ち読みにふけってしまい少し遅く成ってしまったのである。
玄関を開けようとした時、室内から隆行とわらしの笑い声がして来た。
えっ、隆行とわらしが一緒に笑って居る様に聞こえるんだが、小次郎は急いで玄関へ入り小走りに洋室へ向かいドアを開けた

隆行とわらしが顔を見合わせ笑って居た、小次郎が帰ってきた事に気付いた隆行が振り向きながら笑顔で言う

「おかえり、見て見ろよ小次郎」

隆行がわらしの顔を指差した、わらしの鼻の頭にタコ焼きの青のりとソースが付いている

「ケンタも、ケンタも」

わらしが同じように鼻先にソースを付けた隆行の顔を指差しケタケタと笑って居る

「わらしちゃんの鼻ソース俺をが笑ったらさ、わらしちゃん俺の鼻にも付けちゃてさ」

小次郎も二人の笑いに釣られ一緒に成って笑った

「隆行、わらしが見えるのか」

「おうっ、見える見えるよーく見えてるぞ」

なぜ隆行にもわらしが見えるようになったのか、この時それは問題じゃ無かった

三人で笑える事が出来た、その今がとても嬉しく重要だったから。