■ああ池袋我が家は時空のスクランブル交差点■【第一章[6]】 | 愛すべき【ろくでなし】小次郎の元気が出るブログ!

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[6]


「兄貴、遅くないっすか?後輩のとうばんじゃん」

「豆板醤じゃねぇよ、東番連!中華料理じゃねぇんだからよ、でも確かにアイツら少し遅ぇな、よしっ政、お前ちょっと先に行って見て来い」

「あれっ、兄貴は行かないんすか?」

「俺はそこのパチンコ屋でちょいとトイレで用を済ませてから直ぐ行くからよ、そうだ政お前に頼んで置いた組事務所にあった俺のドス(鍔の無い短刀・懐剣)持って来てあるか」

「バッチリっすよ、車のトランクに入れて置きやした」

「そうか、じゃ俺も追っかけ直ぐに行くからそれ持って先に行っててくれ」

黒柳が車内のトランク開閉レバーを引きトランクを開けた、政がドスを取りに行こうと助手席ドアを開けたがふと動きを止め
黒柳に聞いた。

「でも兄貴、こんな物騒な物持って何に使うんすか?」

いちいち説明してやらないと理解が出来ない政との付き合いもいい加減慣れて来た黒柳である。

「その俺のドスはな一見しただけじゃ分からないけど、模造品、偽物、おもちゃみたいな物で安全なんだよ、それで何しようって訳じゃねぇ、これ見よがしに腹の上辺りでベルトの内側にでも差し込んどきゃ大方の堅気さんなんかビビっちまうもんさ、ましてや相手は女子高生だ、まっ演出の1つだと思ってりゃ良い」

「成程!さすが兄貴だ」

急に尿意が増して来てしまったのか黒柳は政に車のキーを投げ、ちゃんと鍵を閉めていく様にと伝えながらパチンコ屋の
トイレへ小走りに去って行った。

黒柳が去った後、トランクの中から政がドスを取り出しそれを片手に眺めて見た、思っていたよりもかなり重たい
おもむろに鞘からドスを引き抜いて見る、カチリと音がし刀身が妖しげに煌めき顔を出す、政は抜いたドスをまじまじと眺めて見た、波紋や地鉄(じがね)がキラリと日差しを浴びて光っている

「斬れそうっすねぇ、これが偽物とはとても見えないっすよね、最近の模造品って凄いっすね」

この時少しでも政が知識を持ち合わせて居たならば、この後の事態もかなり違って居たはずである

そもそもドスとは、よく任侠映画などでヤクザや博徒が喧嘩などで使用している持ち手部分の柄や刀身を収める
鞘が白木で出来ている物である、ドス又は匕首(あいくち)とも言い時代劇でも盗賊などが最後の悪あがきでこれを片手に
暴れてたりするシーンは誰でも1度は見た事が有るのではないかと思われる。

ドスの語源を紐解けば、「懐などに忍ばせて置き人を脅す為」この脅すのおの字を抜きドスと成ったのである
しかし今、政が手にしている物には見事な彫り物をあしらえた鍔が有り、刀を握る柄部分には細部まで行き届いた文様
が施してあった、これはもう立派な日本刀、脇差であった。

それは昨日朝の事である、組事務所の泊まり当番を終えた黒柳と政が事務所の前の路肩にマークⅡを停車させ、今回の最終打ち合わせの為にやって来る東番連の総番を待っていた、総番の姿が前方に見えた時黒柳は予め用意して置いた模造品のドスを
組事務所のテーブルの上へ無造作に置き忘れて来てしまった事に気が付いた、黒柳は東番連の総長とは近くの喫茶店で打ち合わせして来るからと政にドスを取って来て車のトランクへ入れて置けと命じた。

実直な政は素直に事務所へと走った、しかし交代で現れた2人の事務所当番が早々と無造作に置かれている模造のドスに気が付き何処かへしまい込んでしまった後であった、政がいくら事務所内を見渡しても目的のドスは見当たらない、運悪く当番の1人は買い出しに、1人はトイレ掃除に没頭中で政が戻って来た事に気が付かない。

「どこにも無いっすねぇ、困ったっすねぇ」

おろおろとしながらもテーブルの下を覗き込んだりしている政の視界にそれは
映った、掃除をしようとしていたのか、隣の応接室の床の間にそれは神々しくも鎮座していた

「あった!これっすね」違う、絶対に違うから!そんな読者や作者の声が政に届く訳がない
喜び勇んで脇差を片手に政は駆け出し車のトランクへそれを収めたのである。


ここから遡る事半年ほど前の事である、政が脇差を持ち出して来た応接室で2人の人物が会話をしていた。
1人は今回の地上げの土地の件で北城時一家へ依頼の為に訪れていた罪友(つみとも)銀行池袋支店長、そしてもう1人は
北城時一家を束ねる北城時天松(ほくじょうじてんまつ)親分である。

「それでは北城時さん、この件は慎重にお願いしますよ、あくまでも我が罪友銀行の名が出てしまう事が無い様に事を進めて下さいよ。」

「その点は重々心得させて頂きました、お任せ下さい、まっうちでやってる良い店が有りますんでこの後は場を変え前祝いを兼ね軽くどうですか、支店長さんもお好きでしょコレは」

北城時がニヤリと小指を軽く立てて見せた、女性が見たら鳥肌をたて逃げ出してしまうような笑みを浮かべ支店長がニンマリとした顔でそれに応じた

「しかし北城時さん、ここに飾ってあるこの刀はまた見事なもんですねぇ」

「あぁ、その脇差ですね、確かにそうなんですがね、以前債権絡みの相談で京都の寺、まぁ名前は出せませんが日本でも有数の高僧の方なんですが、手にする人によっては銘刀でも有るが、北城時家に取っては大いなる災いの元となる妖刀に成り兼ねない、そんな気を放っているなんて言われましてね」

「あははは、妖刀ですが、どこの坊主か分かりませんが飛ぶ鳥を落とす勢いの北城時親分に掛かっちゃ妖刀も縮み上がってしまって出る幕なしでしょ」

「そう有って欲しいもんですな、ささっ支店長さん妖艶な美女がお待ちですよ行きましょう」

これが今、政が片手に感心しながら眺めている脇差、妖刀であった。